21話 ページ21
「うわ、最悪、雨や」
「今降り出すんか……はよ帰らんと危ないな」
急にザアア、と重たくたれ込めた雲の一点に針をさして均衡を崩したときのように雨が降り出して、重たい粒が天乃たちの肩をばたばた打った。
泥まみれの足が雨でぐちゃぐちゃにぬかるんでいく。額に垂れたのは汗か雨か、手の甲でぬぐって石碑を覗き込む。
「……これ、は、」
「蛇…」
彫られていたのは、二匹の蛇が絡み合って、あたかも魔法陣のような奇怪なもようを作っている絵。心底奇妙だった。しゃがんでいたせいでびちびちと泥が顔に跳ね返る。
天乃と鳥井は顔を見合わせて、背をぶるりと震わせた。理屈ではない、根源的な恐怖。
そこから先はほとんど無我夢中だった。神様がいない、いない、と掠れ声で繰り返すAを半ば抱えるようにして何度も転びながら山をおりた。町につくころにはもう日付を跨いでいて、天乃は母からゲンコツを食らったし鳥井も鬼の形相のお父さんに引きずられて行ったけど、Aさんの親は迎えに来ていないみたいだった。
その頃にはすこし落ち着いていたAさんは、親、きっと私がいないことに気づいてすらいないと思う、と諦めたように言った。何も言えず立ちすくんでいると、Aさんはじゃあねと踵を返して、その背中がなんだかとても小さく見えて、天乃は思わず「なあ！」と声を出す。
「……また明日、やで」
な、と笑いかけると驚いたようにつりめがちの目が大きくなる。猫みたいだと天乃は少し思った。……あ、いまAさん、ちょっと笑った。
「うん。一緒に神様、見つけようね」
家に帰って、風呂のお湯の暖かさと、怒りながらも晩飯をチンしてくれた母親の優しさに天乃はすこし泣きそうになった。湯に体を沈めて水平線を眺めながら、山頂の切り株と急に降り出した雨、謎の蛇の石碑──に思いを馳せる。
「…こういうんは物知りに聞くほうがええよな」
天乃は、ほんのりのぼせた頭で鳥井と三人でよくつるんでいる友人の捏島のことを思った。読書家やし、なんかわかるかもしれんなあ。
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桜華(プロフ) - こんにちは！初コメント失礼致します！神様モチーフの素敵な作品、これからどんなことが待っているのかワクワクが止まりません！無理のないよう、更新頑張ってください！青,い,鳥の方、フォロリク失礼致します。 (2022年7月3日 15時) (
レス) @page8 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaniska | 作成日時：2022年7月1日 17時
