3話 ページ3
日差しを反射して本棚の輝くのがAはすきなのだ。読まれるために生み出されたうつくしい世界がきらきらと、手に取られることを期待するようにAの瞳に映る。
絵本でもいい、イタリア文学でも、そうだ私の好きな近代文学でもいい。
手を伸ばして背表紙をなぞりながら、その中に詰まる弾けんばかりの物語を想う。
「カミ、サマ…の、……なんだろ、これ」
ふと人差し指の触れたぼろついた薄い本、それに気づいた。背表紙すら欠けていて正しく表題を認識することは叶わなくて、Aはなんとなしにそれを引き抜いた。
神様との出逢い方。
表紙には辛うじて読める飾り文字で題名が記されていて、何の変哲もない、誰かの日記に見えた。それなのに題名とこれの纏う雰囲気だけが異質で、ああこのなかを暴いてみたい、出所不明の欲求がAの脳をつきあげる。
思えばここで留まればよかったのだ、けれどAの指は躊躇うことなくその表紙をめくった。すこしぼろついた脆い紙にインクが滲み、お世辞にも綺麗とは言えない文字がならんでいる。
──あしがほしい。
──今日は、てがほしい。
──きれいないろの、め、ください。
──病気を直して欲しい
──好きな人と両想いになれますように。
初めの三つはおなじ字体だ。ほかはてんでばらばらで、ただただ一文ずつ、なんの脈絡もない願いが並んでいる。
ぞくり、と背中が顫えた。
気味が悪い。お金が欲しい、友達と絶交したい、先生に褒めてもらいたい。たわいもない願いが何頁にもわたってそれぞれ異なる字体で並んでいる。だんだん軽くなっていくその願いの中で、初めの三つだけが、異質だった。
*
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 233人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
桜華(プロフ) - こんにちは！初コメント失礼致します！神様モチーフの素敵な作品、これからどんなことが待っているのかワクワクが止まりません！無理のないよう、更新頑張ってください！青,い,鳥の方、フォロリク失礼致します。 (2022年7月3日 15時) (
レス) @page8 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Kaniska | 作成日時：2022年7月1日 17時
