15話 ページ15
「帰省でもしとんやない」
「やっぱそう？夏野サンは東京出身？東京に彼氏もおる？」
「しらん」
天乃はもういちど座り直して足を組む。あまり考えたくはなかった。でもたしかに夏休みだというのにこうも見かけないというのはすこし違和感がある。狭い田舎だ、夏休みがはじまってからほとんどのクラスメイトとはすれ違っているし、そうでないのは家族旅行に出掛けているすこしリッチなクラスメイトだけ。
なにせここらにはコンビニがひとつしかないのだ。スーパーマーケットに行きたければ山を下って隣町まで行く必要がある。食べ物を買うにも文房具を揃えるにも基本学生の行き場所なんてみんな同じで、だからこそ全くそこらへ出没しないAさんが心配になる。
もとより田舎にはどうしようもなく馴染まないひとだった。たしか小学生のころに彼女はこの町にやってきて、それ以来ずっとああして生きている。コンビニにも来るし駄菓子屋にだってよく通っていたが、彼女の周囲だけはどうしても涼しげに澄み渡っていて、だからきっと彼女の誕生日をこの町の人は誰も知らない。
「夏野サンもシとるんかな。彼氏と」
「黙れ」
「はん。童貞」
「言ってろ」
天乃ははんと鼻で笑った。これまた田舎の欠点で、クラスメイトの誰が経験済みで誰が“まだ”かはお互い把握している。隣のクラスのAちゃんは高校に入学してすぐ不良のB先輩に食われて、とか、そういうのが周知の事実として出回っている。たまに天乃はそれを気味悪いと、思う。
天乃も鳥井も童貞だ。お互いわかっていて、だから鳥井の天乃に対する童貞いじりはモテないという意味と相似である。
そしてこれまたやっぱり、処女なのか非処女なのかだれも知らないのはAさんだけだ。女はどうせビッチだよと陰口を叩くことしかできなくて、男はどっちでもアリだなんて彼女からしたら傍迷惑でしかない下世話な話で盛り上がる。
「Aさんに好かれる男ってどんなんやろな」
「神様みたいなやつなんやろな。それか不良。成人済みのヤリチン」
「……アリやな」
半分うわの空で適当に答えてから、神様みたいな男ってなんやろ、と天乃は空を見た。裏山あたりの空が重たい雨雲で淀んでいるから、そろそろきっと雨が降る。
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桜華(プロフ) - こんにちは！初コメント失礼致します！神様モチーフの素敵な作品、これからどんなことが待っているのかワクワクが止まりません！無理のないよう、更新頑張ってください！青,い,鳥の方、フォロリク失礼致します。 (2022年7月3日 15時) (
レス) @page8 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Kaniska | 作成日時：2022年7月1日 17時
