°８２ ページ10
カツン、カツンと足音が冷たく響く。
暗くて静かな小部屋に、私は座り込んでいる。誰かがこの部屋に来ているらしい。
この部屋には、何もない。月光だけが差し込んでいて、ただ薄暗いのみだ。
…一歩一歩、足音が近付いてくる。
それに呼応するように私の鼓動が早まっていく。
その拍動は期待や高揚の類じゃなくて、明らかに恐怖から来る物だった。…一体如何して？
考えろ。思考は冷静を保っているのに、鼓動は加速する。私は何に怯えているのだろうか。頭が回らない。それでも考えろ。
月が見える。今は夜中か。…ここは何処だろう？喧騒が聞こえないから、周囲の人通りは極めて少ないのだろうか。近くに集落なんかはなさそうだ。
足音がゆっくりとやって来る。考えろ。思考を放棄するな。
＿私の本能が、足音の主から絶対に逃げろと告げている。
どうしたら脱出できるのか。足音の主は誰なのか。どうしてここに私は居るのか。
疑問を巡らせるうちに、私はあることに気付いて口を抑えた。…私は、一番大切なことも忘れてしまっている。
(…そもそも自分は、何者？)
記憶が朧だ。鼓動が煩い。考えろ。動け。…足音がもう、すぐ傍まで来ている。
「自分が何者か、か…。知りたいか？」
…刹那、背後から温度の無い声がして、即座に私は”捕まったんだ”と理解した。
私はこの、闇を映したような黒い瞳を知っている。
＿霞む視界の中で、見覚えのある逆十字が揺れた。
＃
「A、起きたか。」
「…クラ、ピカ。」
瞳を開けると、目の前には見知った顔があった。どうやら纏が解けていたらしい。…安心すると同時に、先程の映像が脳裏に蘇って。
"ああ、夢を見たんだな"と無意識に睫毛を伏せる。あれは私が、あの組織に置かれていた頃の夢に違いなかった。
＿「自分は何者か」。私には、あの組織に置かれる以前の記憶が無い。
「顔色が悪いぞ。…大丈夫か？」
「夢を見ただけだよ、気にしないで。」
クラピカは何かを感じ取ったみたいで、私の顔を覗き込みながら言う。
その瞳は真っ直ぐに私を見ていて、クラピカの優しさが有り難かった。
「…クラピカ、ありがとう。」
無意識に、そんな言葉が零れる。彼は驚いた様子だったけど微笑んで、いつかのように私の両手をぎゅっと握ってくれた。
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おじいちゃんパンチ - このお話くっそ好きやばい気長に更新お待ちしております。 (3月8日 20時) (
レス) id: 8e40b31507 (このIDを非表示/違反報告)
温故知新(プロフ) - まだご不便な思いをされているかとは思いますが、寒さも厳しい季節ですのでどうかご自愛くださいませ。今後も更新を楽しみにお待ちしております…！ (1月13日 16時) (レス) id: a95c51921b (このIDを非表示/違反報告)
温故知新(プロフ) - なぎテラスさん» ご返信も更新も本当にありがとうございます…！😭 ご親族様が無事に避難されましたこと、そしてなぎテラスさんのお気持ちや生活が少しでも落ち着いたとのことで、本当に安心致しました。→ (1月13日 16時) (レス) @page16 id: a95c51921b (このIDを非表示/違反報告)
なぎテラス(プロフ) - また日常に戻れるのがいつになるかは分かりませんが、一日一日を大切に過ごしながら、空いた時間があったらこちらの作品も進めていこうと思っております。温故知新さんのコメント、本当に励みになりました！重ねてお礼申し上げます。 (1月12日 19時) (レス) id: 489c1c6afd (このIDを非表示/違反報告)
なぎテラス(プロフ) - 温故知新さん» 返信遅くなってしまって申し訳ありません。温かいお言葉とお気遣い、本当にありがとうございます。心の底から嬉しいです…！今日親族が都市部へ避難出来ましたので、気持ちも忙しさも以前より落ち着きました。 (1月12日 19時) (レス) id: 489c1c6afd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なぎテラス | 作成日時：2023年1月30日 11時
