【実況者】ガラクタだらけの箱庭にて、【短編集】 (ページ3)

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好きなものは/あろまほっとページ3

「は？写真について教えろ？」

『お願いします、先生！』

　

私の言葉に、あろまさんは "わけがわからない" という顔をする。
その眉間に寄るしわを消そうと手をのばせば、軽く叩き落とされてしまった。

　

「教えろって…普通に撮ればいいじゃん」

『普通、とは』

「普通は普通だろ」

　

それがいまいちピンとこないのだけども。
しかしどうにもキリがなさそうだ。

彼もそう思ったらしく、呆れたような表情で何がわからないのか訊いてきた。
正直に "いざカメラを手にすると何を撮っていいか分からなくなる" と答えれば、彼の返答は大きな溜息。

それでも一応、相談には乗ってくれるらしい。
私を追い出さないのが証拠である。
やっぱりなんだかんだ言って優しい人なんだ。

　

「適当に好きなもの撮ってみたらどうよ」

『好きなもの？』

「嫌いなもの撮っても楽しくないだろうが」

　

なるほど確かにそうかもしれない。
好きなもの、か。

持って来ていたカメラを取り出して、心の動くままにあろまさんに向けた。
カメラ越しの彼は再び眉間にしわを寄せている。
そんな顔すら好きだなあなんて思っちゃうあたり、重症かもしれない。

カシャッ

シャッターの音と共に、あろまさんがびくりと肩を震わせるのが見えた。
そして体勢も変えずに固まってしまう。
どうかしたのかとカメラをおろした瞬間、手が伸びてきて──

　

『っ…！？』

　

少しひんやりとした両手が、まるで私の頬を挟むように触れた。
そのままお互いの距離が近くなって、恥ずかしさで思わず目を瞑る。
すると心做しか彼の指先に加わる力が少しだけ強くなった気がした。

　

「好きな "もの" って言ったべ！？俺は "もの" か！？」

　

また一つ溜息が聞こえる。
恐る恐るゆっくりと目を開ければ、目の前の双眸ははっきりと私を捉えていた。
一度視線が合っただけで身体に電流が走るような感覚。

　

「…ばぁか」

　

細められた目、少し上がった口角、ちょっとだけ赤みを帯びた頬。
その全てに見とれて、目が逸らせなくて。

　

「……A、」

　

不意に視界からあろまさんの顔が消え、首元だけになる。
それに対する寂しさに気を取られ、彼の意図には気づけなかった。
額に触れた柔らかな感触。
キスをされたのだと理解したのは、数秒後。

　

『…え、あああろまさん…！？』

「ふふ、仕返し」

　

動揺のあまりカメラを落とす私を見て、彼は満足そうだった。

　
　