変わり者/牛沢 ページ1
「A」
どうせまた振られたんだろ。
牛沢はそう言って、私の机にパックのいちごミルクを置く。
その気遣いは有難いけれど、どうせとは何だどうせとは。
『違いますー！振りましたー』
「いやまあ、どっちでもいいわ。で、何、暴力？ストーカー？」
『六股』
「そいつやるじゃん」
『ばか』
何故か男運が絶望的な私は、付き合う人が何かしら問題のある人ばかり。
簡単に言えばハズレしか引かない、みたいなものだ。
目の前にいる彼は私の良き理解者で、面倒くさそうにするくせにいつも最後まで話を聞いてくれる。
ほら、今日だってそうだ。
あの最低男と出会ってから今日に至るまでの経緯を長々と話しても、文句も言わずに。
『…私、馬鹿だよね』
牛沢は無言でパックのジュースを飲んだ。
視線をこちらにやったかと思うと、それはすぐに窓へと向けられる。
どうにもこいつがくれる沈黙は優しすぎる。
何も拒まない、必要以上に干渉しない。
だから私はどうしようもなく泣きたくなるんだ。
『…好きだったんだよ、本気で』
あーあ、また私は泣かなきゃいけないのか。
恥ずかしさと悔しさで思わず机に突っ伏した。
ぽん、と頭に何かが乗るような感覚。
あたたかくてやさしいこれは、きっとやつの手。
私が泣きたい時いつもそばに牛沢がいて、私が落ち着くのを待っていてくれる。
「…つまりさ、そのポジション空いたってわけ」
普段こういう時、牛沢は何も言わない。
降ってきたその声に何事かと思いながら、袖で涙を拭った。
『ポジションって』
「Aの彼氏枠」
『まあ…空いた』
「じゃあどうよ」
『…え？』
言葉の真意を測りかねて顔を上げれば、随分と真剣な顔をした牛沢と目が合う。
そして次の瞬間、やつは意地悪そうに笑った。
「俺、とか」
持ってるパックがちょっと潰れてるな、とか。
眼鏡に少し隠れた頬がほんのり赤いな、とか。
何も言えずにいたら不意に手を取られる。
相変わらず、なんてやさしい手だ。
「後悔させないぜ？」
私はまともな男に縁がない。
要するに彼はまともじゃないのだろう。
まあ、それもそうか。
『あんた変わってるね』
私なんか相手にするあたり、あんたも大概だ。
(俺を選んでくれればいいのに)
(どんだけ前から見てきたと思ってるんだ)
(
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作者名：璃京 | 作成日時：2016年2月25日 0時
