【薄桜鬼】純血を巡る者６ (ページ10)

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１０６：二人の脱退＜雪村千鶴＞ページ10

甲府から戻ってきてから
しばらく経った日の事。

永倉「そんじゃ世話になったな、三人とも。
俺たちがいなくなっても、泣くんじゃねえぞ！」

千鶴「あの…、
本当にここを出て行ってしまうんですか？」

原田「そろそろ、潮時だろうと思ってな。
……皆と別れるのが寂しくねえって言えば、嘘になるが…」

あの一件以来、
近藤さんとの折り合いが良くなかった
永倉さんの不満は完全に爆発。

出掛けている近藤さんを追いかけ、
出先で殴り合い寸前の大喧嘩にまで
発展したと聞いた時は驚いた。

でも、何で今日なの…？

沖田さんも平助君も出掛けていていないのに…。

千鶴「もう一度近藤さんと話し合って、
何とか、歩み寄る事は出来ないんでしょうか？」

永倉「あれだけの大喧嘩をしても無理だったんだ。
あの時だってもし刀を差してたら、
どうなってたか分かんねえぜ」

原田「おいおい新八、
局中法度を忘れたのか？
私闘は厳禁だろ？」

永倉「俺はもう新選組の幹部じゃねえんだから、
局中法度も関係ねえって」

"新選組の幹部じゃない"

その言葉が胸をグサリと刺した。

原田さんと永倉さんの様子は、
驚くほどいつも通りすぎて、
これでこの二人とお別れなんて信じられないほどだった。

千鶴「……ここを出ていく理由を、
窺ってもいいですか？」

この問いかけに、
永倉さんは少し考え込んだ後、答えてくれた。

永倉「まあ、色々あるんだけどな。
一番の理由は、このままここにいると、
俺が生きてきた人生が、
全部嘘になっちまう気がしたんだ。
…………俺は、近藤さんや土方さんみてえに、
侍になりてえって思ったわけじゃねえ。
薩長の奴らに銃で撃たれるのは別にいい。
斬られる事だって怖くねえ。
……ただ、死ぬ間際に、
あの時ああしてりゃ良かったって思うのだけは、
絶対に嫌なんだ」

永倉さんの答えは、女の私でもよく理解できた。

未来へ歩む道への食い違い。

そして、後悔をしない為の決断。

千鶴「原田さんも、同じ考えなんですか…？」

原田「同じ考えって……、やめてくれよ。
剣術修行の為だけに脱藩して、
安定した暮らしを捨てた馬鹿と一緒くたにされちゃ、
俺が可哀想だろ」

永倉「うるせえぞ、左之！
てめえだって脱藩者じゃねえかよ！」

ほんの少しの冗談を交えて紡ぎ出された言葉は、
きっと私たちへの気遣いだろうと思う。

この人は、どんな時でも変わらない…。

いつも優しくて、
いつでも気にかけてくださる。