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113:夜の散歩 ページ24

慶応4年5月末。

長岡邸の出来事から、
一月半が経った。

近藤さんがいなくなってしまったのだが、
それでも私たちの戦いは終わらない。

私と斎藤さん、
教練に出ていた隊士さんは会津の地を踏んでいて、
その会津では戦いの日々を送っていた。

そんなある日の夜。
私たちは山の中で野営をしていた。




A「空は、いつでも変わらないのに…」




今は屯所のような場所はないから、
最近の定位置は専ら木の上だ。

もちろん野営地の近くだけど、
それでも火の灯りが薄い場所を選んでいる。

何度手を伸ばしても、
小さな星たちや月に届くわけもないのに、
夜空を見上げても手を伸ばす。




斎藤「どれだけ伸ばしても、
届かぬものは届かぬ」

A「……見てたんですか?」




墨染の空間から聞こえた声に、
木の上から見下ろす。

そこには呆れたような顔をしながら、
こちらを見ている斎藤さんがいた。

斎藤さんは、すぐに私の居場所を見つけてしまう。
これだけ一緒にいれば、そりゃそうか…。


斎藤さん側から私の顔が見えているのか分からないけど、
私は小さく微笑んだ。




A「空はまるで、近藤さんのようですよね…」

斎藤「……あの方は、
広く大きな器をお持ちだったからな…」

A「沖田さんは、見れたんでしょうか?」

斎藤「どうだろうな。
だが、今ここに総司がいないという事は、
見れたのかもしれぬな」




もう一度空を見て、
それから斎藤さんがいる地面へと飛び降りた。

少し上にある斎藤さんの顔を見上げ、
もう一度、小さく微笑む。

すると斎藤さんは目を伏せ、
口角をほんの少しだけ上げて返してくれた。




A「少しだけ、お散歩しませんか?」

斎藤「……ああ」




知らない土地。

こんな場所で、私が一人で出歩けば、
きっと斎藤さんに迷惑を掛けてしまう。

それなら斎藤さんと一緒に歩いたほうがいいと思い、
そう提案しただけだった。

だけどそれを快諾してくれ、
私は手をお尻の上で組みながらゆっくりと歩き出す。


静かな山の中。

時折聞こえるのは、
風に吹かれて擦れあう草の音と、
私たちの足音だけ。

こういう静かな夜が、私は大好きだ。

****→←112:その頃<原田左之助>



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斎藤ようこちゃん(プロフ) - 素敵だよ。涙が流れます (2020年5月24日 23時) (レス) id: e53507092f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:まほろ | 作成日時:2019年9月26日 17時

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