【薄桜鬼】純血を巡る者４ (ページ32)

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縁側を走っていると、
急な突風が吹く。

満開の桜がブワッと舞い散るその中。
淡い色の景色の中に
黒と白の布がはためいたのが
ほんの少しだけ見えた。

草履を履く事も忘れ、
縁側から庭に飛び降りて足袋のまま駆け出す。

A「斎藤さん！」

斎藤「あんたか…」

A「斎藤さん、
伊東さんに付いて行くって、本当ですか…？」

その問いかけに返事はなく、
ただ時間だけが過ぎて行った。

風が吹き、木々が擦れあう音と
桜が舞い散る音だけが響く。

斎藤「何度目だろうな。
こうして京で見る桜は…」

ユラウラと風に吹かれて揺れる枝たち。
カサカサと音を立てる桜の花びら。

その儚さと美しさは、
今の私とは正反対の色を持っていて眩しかった。

斎藤「時が移ろう中で、様々なものが変わっていく。
世の動きも思想も、そして、この新選組も」

A「変わってしまったから、
ここを去って行くんですか…？」

斎藤「それでも、何もかもが変わってしまうわけではない。
そして俺は変わらないものをこそ、信じている」

変わらないもの…。

斎藤さんにとって、
変わらないものとは何ですか…？

覇気のない寂し気な声音に、
いつも斎藤さんはそこにはいなかった。

私の中に映し出される映像は、
素っ気ない言葉の中に秘めた優しさを放つ斎藤さんばかり。

無意識に斎藤さんの後ろへ立ち、
斎藤さんの背中に額をくっつけた。

A「私は…っ、斎藤さんの言葉に、
ずっと救われていました…。
斎藤さんの隣に、存在に…、
ずっと、ずっと…っ、安心を貰っていました…。
それは、これからも変わらず私の中に、あります…。
本当に、ありがとうございます…。
何も返せなくて、すみません…っ」

背中から離れ、踵を翻す。

ギリギリだったけれど、泣かずに言えた…。

どうか伝わってください。
ここに、あなたに救われた人が…、
鬼がいたんですよ。

鬼を救うあなたは本当に凄い人です。

斎藤さんの姿が見えなくなった場所の物陰に座り込み、
声を押し殺して泣いた。

それから数日後の慶応３年３月２０日。

伊東さんを指示する１３人の隊士と共に、
平助君と斎藤さんは新選組の屯所を後にした。

桜の花は散り、
季節は初夏へと向かおうとしていた。