６３：嫉妬と安心＜斎藤一＞ ページ1
風呂からの帰り、
夕餉の出来事を思い出しながら
廊下を歩いていた。
総司が労咳とは…。
あの死病を、まさか自分の仲間が
侵されるなど夢にも思っていなかった。
それにあれだけの苦痛を味わい、
辛い思いをしてまで作った変若水を
Aはいとも簡単に掃除に渡していた。
あの時のAは
どのような気持ちだったのだろうか…。
だが、Aの事だ。
どれだけ自分が犠牲になろうとも、
総司の病気が治るのなら
それを選んだだろう。
自室の障子を開けて中に入り、
床に入ろうと布団を敷いた。
布団を敷く衣擦れの音に混じり、
何か音が聞こえる。
いや、音というより声、か…？
布団を敷き終え、
その場で佇んで声の出所を探せば、
それは襖の向こうから聞こえてきているようだ。
隣はAの部屋だが…。
そちらへ意識を集中させてみれば、
これは、嗚咽…？
泣いて、いるのか…？
普段は開けない襖を開ければ、
真っ暗な部屋で壁に背を付けて座り込んでいる
Aの姿を見つけた。
斎藤「どう、した…？」
A「いえ…、何でも、ありません…」
斎藤「泣いているのか？」
その答えはない。
座り込んでいるAへゆっくりと近づく。
目の前まで来れば、
もう一度鼻を啜るような音が聞こえた。
その場で腰を下ろし、もう一度だけ問いかける。
斎藤「何があった。どうしたんだ？」
A「ごめん、なさい…っ、
すみ、ま、せん…っ」
あまりにもいたたまれず、
Aの腕を掴んで強く引いて抱き締めた。
最初は驚いていたようだったが、
すぐに俺の寝間着を掴んで
押し殺す事もなく声を出して泣き出した。
A「私が、変若水を沖田さんに渡さなければ…っ、
沖田さんは、人でいられたのに…っ」
斎藤「それでも総司は、生きる道を選んだ」
A「できるなら、沖田さんには…っ、
人でいて欲しかった…っ。
でも、でも…っ、それでは、沖田さんが…っ」
斎藤「しかし、良かったのか？？
あれほど辛く痛い思いをして作った変若水を」
A「そんな事は、構いません！
私が出来る事なら、どんな事でもします…っ」
何故、自分の事を大事にしない…。
もっと大事にして欲しいものだ…。
そう思えば思う程、
Aを抱きしめる力は強くなっていく。
斎藤「どれだけ自分を犠牲にするのだ。
もっと大事にしろ…」
A「……っ、でも…っ」
斎藤「……大丈夫だ。
あんたは正しい判断をした」
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斎藤ようこちゃん(プロフ) - 涙が…溢れて止まりません。 (2020年5月24日 15時) (
レス) id: e53507092f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：まほろ | 作成日時：2019年9月12日 14時
