トリック05 ページ25
しばらくして、圭人が言った。
「……Aちゃんは、壊さないでおこうか。」
『お前……正気か？』
ジャックの制止を振り払って、圭人は頷く。
「もちろん正気だよ。Aちゃんは人形族を知らない人形族なんだ。だからきっと大丈夫。」
『……いいのかよ、それで。』
そこにいる皆は誰一人として反対しなかった。
それどころか、
「俺は賛成。」
真っ先に手を挙げたのは、光くん。
「俺も。」
「うん。」
後に続くように手を挙げていく皆。
「…山ちゃんは？」
気づけば、俺以外の全員が賛成していた。
「……もちろん、賛成。」
全員の思惑が一致した。
ミーティングはこれで終わり。
明日から本格的にハロウィンパーティーが始まるから、今日はちゃんと休んでね？
圭人はそう言うと、各々席を外していく皆。
しかし、
「圭人？」
真っ先に声を掛けたのは、圭人の一番近くに座っていた裕翔。
圭人はジャックを右手に持ったまま、微動だにしなかった。
その異変に気付いた皆。
真っ先に状況を理解したのは古くからここに居る雄也だった。
「……ジャック、悪ふざけは大概にって前にも言わなかった？」
若干怒り口調の彼。
雄也は右手を真横に伸ばす。
そこに出現したのはとてつもなく巨大な鎌。
死神族である彼の仕事道具。
人間の命を狩る、彼の生きるための道具。
以前として動かない圭人。
しかし右手に握られたジャックは口を開いた。
『ケケッ……本当にいいのか？あいつを壊さなくても。』
「いいんだよ、皆で決めたことなんだから。」
『にしても雄也、その物騒なもん振りかざすなよ？』
「分かったから。早く圭人を解放して。」
『チッ……可哀想に。』
ジャックは可哀想と一言残して黙り込んだ。
「……あ…れ？」
「圭人！良かった。何もない？」
「……え？」
怪訝そうな顔。
圭人は状況を理解できていないようだった。
俺達はこれでひと段落ついたと思っていた。
しかし誰も気づいていなかった。
この会話を聞いていたのは、俺達の他にも居たってことを。
そう。
『彼女』がそこに居たってことを。
「………ぁ…っ。」
「…何か言った？」
誰かの声が聞こえた気がして、俺は声を掛けた。
「え？何も言ってないけど？」
皆は不思議そうに俺を見た。
聞き間違いかな？
そう思っていた矢先、
「……きゃぁぁぁぁ!!!!」
甲高い悲鳴がはっきりと聞こえた。
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