【文豪ストレイドッグス】蜂の在り処 4章

180針 ページ40

A side
『……桜庭さん、森さんと探偵社の皆さんに伝言をお願いします』


「はい」







『今は探偵社の誰にも会いたくない…と伝えてください』



私の発言に桜庭さんの顔に驚きの色が浮かぶ。



「…会いたくない、と伝えれば良いのですか？」


『はい』


改めて確認する桜庭さんに即答した。




「……宜しいのですか？」


『何がでしょう？』



まるで私が前言撤回をすることを望んでいるような言い方に、私は少しだけ眉を寄せた。


その態度に、私を怒らせたと思ったのか、桜庭さんは直ぐに腰を曲げて頭を下げる。



「大変失礼いたしました。

直ぐに伝えてきます」



そそくさと部屋を出て行った桜庭さん。


誰も居なくなった部屋で私はため息を吐いた。



『別に怒ったわけじゃないんだけどなぁ』



手元に残されたタブレットに目を落として、再び頭を働かせる。



《天人五衰》と探偵社。

拘束されている治くん。

乱歩さん、敦くん、鏡花ちゃんは行方知れず。

社長も捕まった。




『みんな、バラバラだ…』



ギュッとシーツを握りしめると、それに連動するかのように脇腹の傷に痛みが走る。



『ッ………ふぅ……』


ズキンズキンと一定の間隔で起きる痛みを落ち着かせながらとにかく頭を動かし続ける。




あの動画にでてきた道化師の男は恐らくゴーゴリ。

以前どこかで彼の異能を知ったけど、単純な異能だった。

単純だからこそ、出来ることは多い…。



『まさかそんな奴が《天人五衰》だったとはね…』


でもゴーゴリは死んだ。


鎖鋸で体が真っ二つ。



『…それすらも「本」に書かれたことによって起こったとしたら…』




駄目だ、「本」に書き込まれたことは整合性が合っていればどんなことでも起きてしまう。


つまりどこまでが本当の現実で、どこからが造られた現実なのかが分からない…。



ゴーゴリが死ぬことも、探偵社がテロリストとして指名手配されることも…もしかしたら私がこの場所に居ることでさえ造られた現実なのかもしれない……。




『…不味い……ぐちゃぐちゃだ…』



考えが纏まらない、思考が落ち着かない、何を考えればいいか分からない。



『どうしよう……』



思わず両手で頭を抱え込んだ、その時──









･






「Aらしくないじゃないか、この程度で焦るなんて」



『え？』



声がした。


随分長く聞いてない気がする。

でも耳に馴染む、いつものおどけた声。



『……治くん…？』

･

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