170針 ページ30
「あ?…"今のままじゃ"?」
含みを持たせる云い方に中原は聞き返すが、Aは目を軽く瞑って中也の言葉など聞いていない。
『さて…どうしようか』
吐息とともに聞こえた言葉は、独り言のようでもあり、誰かに話しかけているようでもある。
しかし、それは決して中原に対してではない。
「………」
Aに声を掛けるべきか否か、悩んでいる中原の後ろでまた扉の開く音がした。
「やァ、目が覚めたようで何よりだ。
やっと仕事に一段落ついてね、気分は
Aちゃん」
『絶好調…とは云えないですが、生きてるだけ幸いです。
ありがとうございました、森さん』
瞑っていた目を開いて扉の方に向けたAは軽く微笑む。
扉を閉めながら入ってきた森は、そんなAの様子に心の中で密かに驚いた。
それもそのはず、いつもの森に対する僅かな警戒心や緊張感、攻撃的な視線が全く無かった。
「首領、お疲れ様です」
中原は帽子を取って立ち上がる。
「中也君も見張り、ありがとう」
『…見張り?』
点滴や心電図機器の数値を確認している森にAは視線を送る。
「きっとAちゃんの事だから、目を覚ましたら直ぐに抜け出してしまうと思ってね。
麻酔が切れる頃合いを中也君に伝えておいたのだよ。
勝手に消えてもらっては困るからね」
ニコニコと笑いながら、カルテに何かを書き込む森にAは思わずため息を吐いた。
『なるほど……』
そのまま中原にも視線を向けるが、中原は気まずそうにして頑なにAと目を合わせようとしない。
『ご安心ください、助けて貰っておいて礼も云わずに消えるほど無礼者ではありません。そんなことしたら先生に怒られます。
それに、生憎脱力感が酷くて歩けそうにもありません』
Aは掌を空中でブラブラと揺すった。
「ふむ、脱力感が酷い…と」
『いや、別に問診じゃないんですけど…』
カルテに書き込んでいた森は「そういえば」と笑い混じりにAを見下ろす。
「君の口から"先生"という言葉を聞くのは久しぶりだね」
どこか懐かしそうな声色で森はまたカルテに目を戻した。
『……そうでしたっけ…?』
Aは目を丸くする。
その様子に森は、やれやれとでも言いたげに眉尻を下げて微笑んだ。
「この場所だから、なのかもねぇ…」
その言葉はAにも中原にも聞こえていなかった。
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jumpcontrolbear(プロフ) - 砂漠のうさぎさん» コメントありがとうございます!なんと!!私の知らないところでこの作品の名前が上がっていたんですね!嬉しい限りです!!更新ゆっくりですが頑張っていきます!ありがとうございます! (2019年10月21日 0時) (レス) id: 34857aaa52 (このIDを非表示/違反報告)
砂漠のうさぎ(プロフ) - あるユーザーさんの紹介から飛んできて一気読みしました。原作の雰囲気を崩さないで新しいキャラが動いていて凄いと思いました。話の展開とか言葉のチョイスとかとても好みです…更新楽しみにしてます、頑張ってください!長文失礼しました (2019年10月20日 21時) (レス) id: ad3e66ea3f (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます!!あけましておめでとうございます!!また動くみんなを見ることが出来ますね!相変わらずの亀さん更新ですがよろしくお願いします! (2019年1月5日 23時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
桜 - あけおめです!今年ほ更新頑張ってください!作者さん文スト3期4月放送ですよ!来ましたよ!!いろいろと大変かもれませんが頑張ってください! (2019年1月5日 1時) (レス) id: c482d4ca60 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます!!番外編も読んでくださったんですね…(感涙)楽しんでもらえてなによりです!!亀更新ですが頑張りますので気長にお待ちいただけると嬉しいです! (2018年11月22日 9時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だし丸 | 作成日時:2017年8月31日 11時