スペアキー ページ37
『声を、かけても…？』
声なんて聞こえなかった。
そこでようやく、自分がまた無意識に空気の″壁″を作っていたことに気がついた。
色々と考えているうちに″壁″を作っていたからみんなの声が届かなかった。
そして百ちゃんが触れたことによって″壁″は消えた。
みんなの声や、百ちゃん達の気配に気づかない程、私は自分の思考に沈んでいたらしい。
「ベランダに空間君の姿があったのに気づいて声を掛けたんだが、まったく反応しなかった君を見て何か緊急事態かもしれないと八百万君と麗日君に行ってもらったんだ」
飯田くんがビシッと私に手を向ける。
『そうだったんだ…ごめんね、気が付かなくて』
私は室外機から降りて皆に軽く謝る。
「Aちゃん、大丈夫？」
お茶子ちゃんの恐る恐る聞くような表情に、ぐっと喉が詰まるような感覚がした。
『……大丈夫、荷解きで疲れて寝ちゃってたみたい。
心配かけてごめんね。
ところで百ちゃんはどうやって部屋に？』
確かドアには鍵をかけてたはずだけど…。
「申し訳ありません、緊急事態だと思って……部屋の鍵を創ってしましいました…」
恥ずかしそうに俯く百ちゃんの手には、百ちゃんの″個性″によって創られたであろう私の部屋のスペアキー。
『わぁ……セキュリティ皆無だねぇ』
「本当に申し訳ありません!!もし気になるようでしたら相澤先生に行ってドアノブの交換を──」
『ごめん、ごめん冗談だよ。
峰田くんならまだしも百ちゃんなら全然平気』
「おい！なんでオイラはダメなんだよ!!」
峰田くんの反応に皆が一斉に笑う。
良かった、上手く話しを変えられた。
『それで、皆どうして百ちゃんの部屋に？』
笑いが収まったところで私はずっと気になっていたことを聞いてみる。
「実はね〜部屋王を決めるために皆のお部屋披露大会してるの!!」
一際楽しそうな三奈ちゃんが言う。
詳しく話を聞くと、どうやらもう寝てしまった勝己くんと体調の優れない梅雨ちゃん以外のA組メンバーの部屋を見せあって誰がクラス一のインテリアセンスが競っているらしい。
『え〜、皆の部屋見たかったな…』
「まあそれはまたいつでも見せ合いっこしよ!!
そんな訳でAちゃんのお部屋も見せて!!」
透ちゃんに言われ渋々頷く。
『そんなに面白い部屋じゃないけど、入ってきていいよ』
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作者名：だし丸 | 作成日時：2019年9月4日 14時
