荷解き ページ36
送ってもらった段ボールを1つずつ片していくと、気がつけば窓の外は真っ暗になっていた。
『丸々一日かかっちゃったなぁ〜』
グッと背伸びをすると、首や肩の骨がバキバキっと音を立てる。
そのままストレッチをするように体を動かしてから改めて部屋の中を見渡した。
『うん、いい感じ』
実家や前の家に比べて狭くはなったが、一人で生活する分には丁度いい環境だ。
『疲れたなぁ……』
何となく外に目を向けると、そこには夜空に煌々と光る月があった。
誘われるようにベランダを出ると、日本の夏独特のムッとした湿気に包まれる。
不思議と嫌悪感はそこまで無かったので、エアコンの室外機に乗っかって、ボーっと月を見上げた。
「ならこれはまだ返してあげられそうにないや」
頭の中で再生される声に目を閉じる。
目の前にあった私の心臓は、取り返すことが出来なかった…。
ニコ、と笑った顔を思い出して全身に寒気が走る。
ずっと思い出せなかった顔が、今はハッキリと思い浮かべることが出来る。
月蔵を思い出すと、それに釣られるようにあの日の夜のことが一気に思い起こされる。
私と勝己くんが捕まった日。
月蔵との再会を果たしてしまった日。
敵連合から勧誘された日。
･
No.1ヒーローの、現役を終わらせてしまった日……。
･
「Aさん!!!」
突然、後ろから肩を掴まれた。
『!!?』
引っ張られるようにして振り向くと、そこには珍しく焦った表情の百ちゃんと、お茶子ちゃんがいた。
『え、ど…どうしたの？』
なぜ二人が私の部屋にいるのか、なぜ二人はこんなにも心配そうな表情を浮かべているのか…。
「良かった、やっと気がついた」
左の方から声がして、見るとそこには隣のベランダから心配そうに見ているデクくんと、その後ろに鋭児郎くんや飯田くん、焦凍くんがいた。
部屋の中には他の梅雨ちゃんと勝己くん以外のA組の皆もいた。
え、隣は百ちゃんの部屋のはずなのに、なんで皆いるんだろう？
一人状況に追い付けていない私は頭の中がハテナでいっぱいになる。
「勝手に入ってしまい申し訳ありません。
でも…Aさんにどんなに声をかけても、目をつぶったまま反応しなかったので、不安になって……」
ゆっくりと私の肩から手を下ろした百ちゃんの言葉に、お茶子ちゃんが同意するように首を縦に振った。
･
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作者名：だし丸 | 作成日時：2019年9月4日 14時
