31針 ページ32
は？
今なんつった？
──『異能力者』
確かにそう言った。
その言葉は俺にとって身近なものであり俺自身もそうである。
そしてそれが商品として売られている。
気持ちのいいものでは無いな……。
無意識に舌打ちをして騒ぎ立てている観客を観察する。
そのうち値段を聞かれ始めると、先ほどの値段を軽々と越していく。
このままどこまでいくんだ？
そんな呑気なことを考えていると
「草田男」
横から自分を呼ぶ声がした。
もちろんそれは首領以外にはありえない。
「はい、なんでしょうか。」
首をそちらに向ける。
首領は目線をステージに向けたまま言った。
「客を黙らせろ。」
正直そんなことをする意味が分からなかったが、ポートマフィアにとって首領の命令は絶対。
yes以外の答えなど用意されていない。
「御意。」
俺は椅子から立ち上がり、
「異能力【万緑】−拳銃−」
拳銃を手に出しその銃口を天井に向ける。
そしてそのまま引き金を引く。
弾丸が勢いよく飛び出し、それによって生じる音が会場に響いた。
客を黙らせるにはその1発で充分だったようで、騒がしかった会場は静まりかえり皆こちらを見る。
俺の横で首領が手に持っていた杖の先を床に強く当てる。
ゴツッと音がしてそのまま首領が立ち上がる。
「１億払おう。」
は？１億？
……え、あの子買うの？
首領は司会がその先を進めないことに少し苛立ったのか
「聞こえなかったか？
１億払う、と言ったんだ。
他にそれ以上の者はいるか？」
そういって会場全体を睨みつけた。
司会が慌ててその続きをする。
首領はそのまま椅子に座り静かに目を閉じている。
驚いた…。
まさか首領が人を買うなんて、ましてや１億も払って。
そんなにあの少女を憐れに思ったのか？
その考えはすぐに打ち消した。
有り得ないな。ポートマフィアの首領ともあろう人間がたった1人の少女を憐れに思うなんて……。
そうなると考えは１つ。
少女の持つ異能力か。
ポートマフィアで使える異能なら存分に使う、という考えか？
結局、１億以上の金額を出す客はいるわけも無く俺達が買うことに決定した。
「では、こちらの商品は１億円で取引させていただきます。
買取者の方は係員の指示に従って裏にお越しください。」
係員が「どうぞこちらへ」と俺たちを促す。
俺たちは店の裏へと足を進めた。
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作者名：だし丸 | 作成日時：2017年2月3日 0時
