29針 ページ30
草田男は間抜けな声を出してポカンと口を開けている。
「え?え?なんで!?」
『マフィアは嫌い。』
Aは草田男の目をまっすぐと見て言い切る。
草田男は困ったように眉尻を下げて頭を搔く。
「う〜ん、なんで嫌いなの?」
『マフィアは人がたくさんいるんでしょ……?
人がたくさんいる所は嫌い。……みんな私を変な目で見てくる。』
最後の方は声が小さくて聞こえにくかったが草田男の耳にはしっかり届いた。
「人売りの所よりも前にいた場所は、人がたくさんいて、君のことを変な目で見るやつがいたの?」
『……………』
Aは何も答えなかった。
口をきつく結び、下を向いているせいで前髪に隠れている目からは感情を読み取れなかった。
「まぁそれは今はいいや。
とりあえず君のことを変に見る奴がいるかもしれないから、マフィアは君の居場所になれないんだね?」
『……うん。』
「……」
草田男は椅子から降りるとAの前にしゃがんだ。
Aの緑の目と草田男の赤黒い目が交わる。
「ならさ、俺が君の居場所になるよ。」
『……え?』
Aには何を言ってるのか分からなかった。
ただ目の前の男の目が真剣さを物語っていた。
「ポートマフィアじゃなくて俺についてくればいい。
もちろん俺は部下がたくさんいてその中には君のことを良い目で見ないやつもいると思う。
でもそんな奴らは見返せばいい。」
『どうやって?』
「そんなのいくらでも方法はある。
そのためには色々大変なこともあると思うけど、きっとそんな目で君のことを見るやつはいなくなるよ。」
草田男は自信あり気な笑顔をAに向ける。
「安心して、俺が君に色んな事教えてやる。
こう見えても俺、ポートマフィアの参謀なんだよ。その俺が君の居場所になる。
どう?」
『マフィアじゃなくて………あなたが居場所……』
Aの目は驚きで見開かれていた。
しばらくそのままだったがAの目が柔らかくなった。
『あなたは変わってる、それに優しすぎる。
でも……あなたなら私の居場所になってくれそう。
よろしく、中村草田男さん。』
Aは目を細めて薄く笑う。
「交渉成立だね。」
草田男はAの鎖の鍵を外す。
「あぁ、そういえば君の名前を聞いてなかった。」
『……東野A』
「それじゃぁA、これからよろしく。」
草田男とAは握手を交わす。
これがマフィアでの生活の始まり。
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作者名:だし丸 | 作成日時:2017年2月3日 0時