1章 1-1 ページ5
No side
出航を知らせる汽笛の音と、強い日差しを受けて眩しく反射する海面。
鷗の鳴き声と遠くの方で鐘の鳴る音にAは目を細めた。
Aは太い木の枝に寝そべりながら木の下に目を向ける。
そこには無数の白い墓と、真下にある墓に凭れかかる太宰の姿。
その目はぼんやりと空を見上げていた。
そこへやってくる白髪の少年。
少年は太宰に声を掛ける前に一旦立ち止まると、そっと墓に向かって手を合わせた。
Aはそれを見て少しだけ目を丸くしたがすぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「……誰のお墓か判っているのかい?」
太宰が不意に声をあげた。
静かに問われ、少年─敦はきょとんとした顔で応える。
「いえ…でも太宰さんにとって大事な人なんですよね?」
Aは自分の存在に気づかれていないことに少しだけ落胆しながら墓に目だけを向けた。
墓には『S.ODA』の文字。
即答した敦に、太宰は薄笑いを浮かべて質問を続ける。
「……何故そう思う?」
「太宰さんがお墓参りなんて初めて見ますから」
「これがお墓参りしてるように見えるかい?」
おどけたように太宰に云われ、敦は瞬きをする。
墓石に頭を凭れさせる姿は、一般的な墓参りの様子とは大きく異なる。
けれど敦からすれば瞭然だ。
墓参りか、否か?──当然墓参りだ。
「見えますけど…」
こくりと頷いてから素直に答える敦に、太宰は僅かに瞠目する。
それはAも同じで驚いたように首を敦に向けた。
やがて無言のまま、太宰は一瞬だけAに目を向け、ゆっくりと微笑んだ。
Aは過去を思い出すように目を閉じる。
四年前、朽ちた洋館の広大な舞踏室。
埃と血に塗れた場所で見つけた二人の人物。
太宰の背中と、太宰に支えられている赤髪の男。
「Aは人の命を奪うよりも、救う方が合っている。
Aは優しい、きっとお前なら上手くやれる」
そんな言葉が懐かしい声と共にAの頭の中に湧き上がった。
『(救う方が合っている、か……)』
「もしかして」
敦の声にAは意識をそちらに戻す。
「太宰さんの好きな人だった、とか?」
「好きな女性だったら一緒に死んでるよ」
「ま、太宰さんならそうか」
Aは自身に向けられている視線に気づかないフリをしながら笑いを堪える。
いつの間にか立ち上がった太宰が敦のほうを向いた。
「なにか云った?」
「いえ、べつに……」
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jumpcontrolbear(プロフ) - 消しゴムクイーンさん» コメントありがとうございます!!そうだったんですか……ぜひ余裕がありましたらDVDでご覧下さい!終始悶えます(笑) (2018年9月9日 1時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
消しゴムクイーン(プロフ) - こんにちは。DEAD APPLE…私、見れなかったんですよ!見たかった……これからも頑張ってください!! (2018年8月15日 13時) (レス) id: b53efceb36 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - なたさん» コメントありがとうございます!!本編の方も読んでくださってるんですね!ありがとうございます!すごく嬉しいです!更新頑張ります! (2018年5月4日 23時) (レス) id: c47121f885 (このIDを非表示/違反報告)
なた - このシリーズめっちゃ好きなのでデッドアップル編まで読めて嬉しいです!これからも頑張ってください (2018年5月4日 22時) (レス) id: a61dc9da8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だし丸 | 作成日時:2018年3月23日 18時