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間幕 3-5 ページ21

澁澤が軽やかに手をひらめかせた。



「君だよ」



らんらんと目を輝かせ、澁澤は床に倒れ伏す太宰を見下ろす。




「最初から私の狙いは君一人だったんだよ」




心待ちにしていた昆虫を標本にする前の子供のように、澁澤は純粋な眼差しをしている。




太宰が呆れたように息を吐いた。




「こんな果物ナイフじゃ痛いだけだと思ったが」




ちらりと、太宰は澁澤に視線を向ける。




「…毒か」




「致死性の麻痺毒だ」




澁澤が嗜虐的な笑みを浮かべた。



指一本、まともに動かせない太宰に囁く。




「味わえ」



甘美な響きさえ込めて。



澁澤は云う。




「君の待ち望んだ死だ」




「何てこと…するんだ」




弱々しい声を出しながらも、太宰は皮肉めいた表情を崩さない。



視界がぼやけ、四肢の感覚が消えて行くのを感じた。



太宰の認知する世界が溶け始めた。


かわりに、永遠の安堵という救済が近づいてくる。




そんな太宰の様子にAは必死に何度も何度も太宰の名前を呼ぶ。



しかし、その声さえも太宰にはぼんやりとした音としか捉えられない。



「…気持ちいいじゃ、ないか」




薄く笑い、太宰が瞼を閉じる。




細い呼吸が、完全に消えた。




ことり。




太宰の体から力が抜ける。



血だまりに、ぼさぼさの蓬髪が沈んだ。



太宰治の、絶命の瞬間だった。









『治くんッッ!!!』



Aの顔から血の気が失せ、Aは震える手で太宰の頬に触れる。



『駄目、駄目だよ、治くん、死んじゃ駄目です……』



震える声で太宰に話しかけるAに澁澤達は興味を示さない。



それよりも、霧が漂う骸砦で事切れた太宰の死体を注視する。




やがて、太宰の体から結晶体が浮かび上がった。




『ッこれは……』




澄んだ白光を放つ結晶体を見て、フョードルが感心したように目を細める



「所有者が死んだことで、異能が分離されはじめましたね」




Aはハッとして結晶体に手を伸ばすが、それよりも早く結晶体は澁澤の前に浮かぶ。





「ああ…生まれて初めてだ。こんなに胸が高鳴るのは──」




澁澤は、輝く異能結晶体に触れようとする。



その寸前で、結晶体に変化が起こった。




「!」




澁澤の眼前で、結晶体がじわじわと赤く染め上げられていく。



見る間に、太宰から生まれた結晶体が、真紅に染まった。

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jumpcontrolbear(プロフ) - 消しゴムクイーンさん» コメントありがとうございます!!そうだったんですか……ぜひ余裕がありましたらDVDでご覧下さい!終始悶えます(笑) (2018年9月9日 1時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
消しゴムクイーン(プロフ) - こんにちは。DEAD APPLE…私、見れなかったんですよ!見たかった……これからも頑張ってください!! (2018年8月15日 13時) (レス) id: b53efceb36 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - なたさん» コメントありがとうございます!!本編の方も読んでくださってるんですね!ありがとうございます!すごく嬉しいです!更新頑張ります! (2018年5月4日 23時) (レス) id: c47121f885 (このIDを非表示/違反報告)
なた - このシリーズめっちゃ好きなのでデッドアップル編まで読めて嬉しいです!これからも頑張ってください (2018年5月4日 22時) (レス) id: a61dc9da8f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:だし丸 | 作成日時:2018年3月23日 18時

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