幕間 1-1 ページ11
No side
古いジャズが、微かに流れていた。
地下にある店内に窓はなく、柔らかい空気と絞られた照明が店内を包んでいた。
カウンターとスツールは年季を感じさせる深い飴色。
そしてカウンターに置かれたグラスの中の氷がカラリと音を立て回った。
グラスには蒸留酒と白いアリッサムの花が添えられている。
そのグラスをとる手も、そこに座る人物も今はいない。
その横で太宰は自分のグラスを手に取った。
その両脇には誰もいない。
太宰の二つ隣でいつもため息をついていた丸眼鏡も
太宰の隣でいつも笑っていた黒いマントも
その逆の隣で不思議な発言をしていた赤髪も
誰も居ない。
それでも太宰はいつもと同じように、座っていた相手に話しかける。
「今日は何に乾杯する?」
「安吾とAが来るまで待たないのか?」
──友の声が、聞こえた気がした。
黙ったまま、太宰はゆっくりとグラスを掲げる。
遠い日の会話を思い出していた。
数年前、おなじ場所、おなじ席で、太宰は織田作に笑いかけたのだ。
「じゃあ世間話でもしよう」
最近、面白い話を聞いたんだ、と。
太宰が思い出すのは、過去の記憶。
「リンゴ自 殺って知ってるかい?」
「リンゴ自 殺?」
今と同じように包帯を巻く太宰と、その隣できょとんと目を瞬かせる織田作。
いつものバーでの他愛ない雑談。
シンデレラか、と答える織田作と、困ったような声を出す太宰。
話はリンゴ自 殺から白雪姫へと変わる。
「この世界そのものが内包する絶望──……」
不可思議なことを云う太宰に慣れているのか織田作は顔色一つ変えずに太宰を見つめる。
話はまた変わり、異能者の話になる。
「そいつは人にリンゴ自 殺をさせる」
どこか異質な笑みで、太宰は云う。
「そのうちヨコハマでも流行るかもね」
「自 殺がか?」
織田作が、太宰を見つめたまま問いかけた。
「素敵じゃないか」
太宰の笑みはどこか幼く、無邪気な子供じみていた。
その真意を探ろうと、織田作は太宰を見つづけるが、どれだけ見ても見えるはずもない。
織田作は諦めたように首を振って代わりに感想を漏らす。
「お前は面白いな、思考がくるくる回る」
太宰はそれに、織田作ほどじゃない、と言葉を返した。
織田作はそれを冗談だろうと流し、出入り口に顔を向けた。
「遅いな、安吾とA」
「…安吾は来ないよ、Aも…此処に来るのを嫌がる」
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jumpcontrolbear(プロフ) - 消しゴムクイーンさん» コメントありがとうございます!!そうだったんですか……ぜひ余裕がありましたらDVDでご覧下さい!終始悶えます(笑) (2018年9月9日 1時) (レス) id: 10ce31b7ea (このIDを非表示/違反報告)
消しゴムクイーン(プロフ) - こんにちは。DEAD APPLE…私、見れなかったんですよ!見たかった……これからも頑張ってください!! (2018年8月15日 13時) (レス) id: b53efceb36 (このIDを非表示/違反報告)
jumpcontrolbear(プロフ) - なたさん» コメントありがとうございます!!本編の方も読んでくださってるんですね!ありがとうございます!すごく嬉しいです!更新頑張ります! (2018年5月4日 23時) (レス) id: c47121f885 (このIDを非表示/違反報告)
なた - このシリーズめっちゃ好きなのでデッドアップル編まで読めて嬉しいです!これからも頑張ってください (2018年5月4日 22時) (レス) id: a61dc9da8f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:だし丸 | 作成日時:2018年3月23日 18時