テーマ別短編集１【東京シンデレラ】(JUMP×JUMP)

酸欠人魚姫５ ページ5

「...な、に、歌えないって、」









呼吸がうまくできない。









風邪で弱ってる、だけだよね？









『声帯麻痺だってさ。たぶん、治らない。声は出せるけどそんなにでない。歌うなんてもってのほかだって。』









なんていえばいいんだろう。









なにか声を掛けたいけれどなにも掛けられない。









『お医者さんに言われたよ。』









『死なないだけ、まし、だってさ。』









それを書いたあと、いままで涙を見せなかった薮くんが急にぽろぽろ涙を流し始める。









「っ薮くん...」









俺はなにも言えない。









なにも言えないから、ただ抱き締める。









「っなんで...なん...俺...だよ。」









掠れて所々聞こえない薮くんの声。









「っ、うぇ、」









泣き声だって満足に出せずに。









細い、細い薮くんの体がさらに儚く見えて。









消えないように、この感触が胸に残っているうちにただ強く抱き締めた。

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