テーマ別短編集１【東京シンデレラ】(JUMP×JUMP)

僕はアヒルになりたかった。５ ページ26

「いのちゃん、飲み過ぎだよ。そんなお酒強くないでしょ？」






心配する山田の顔。






「うるさいな。」






いつだってそう。
いつだって優しくて、男らしくて。
俺の方が年上なのに。
俺のことを下に見てるんでしょ。
だから優しくするんだ。






苛立ちが募る。






もういっぱい飲む。頭が痛い。




「いのちゃん！」






不意に、山田に手を握られる。









その瞬間、目から涙が零れた。






「ねえ、大丈夫なの。なんかあったならいってよ。」





迷いのない山田の瞳。






この目が嫌いだ。






この目に映されると、自分の弱いところも、迷う心も全部筒抜けな気がしていた。







「山田には、山田にはわかんないよ！」






驚いた様子の山田。でももう止められない。







「いつだって迷いがなくて、ずっと人気で絶対エースで！俺は惨めなだけ！人気になっても仕事が増えても！」






「山田には、追いつけない…」





自分の声があまりにも弱々しくて驚く。







「…いのちゃん。俺、好きだよ。」






「なに、が」








テーブルの向こう、あと六十センチ。






どうしようもなく遠い距離。







山田の瞳が揺れる。







ーその距離をゼロにして。

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