第７９話 ページ11
「喉乾いてるでしょ？ジュース入れてくるわね」
俺を居間の椅子に座らせるとTorielさんは台所へ行き俺のためにジュースを注ぎに行った。
(思ったよりしっかりしてる家だなあ……、それに何だか幸せそうな家だ)
壁に貼られている写真や絵を見ながら俺はそう思った。けど、今はTorielさんとFriskという子しかいなさそうなのだ。
しかも、Friskは俺がくる少し前に来たらしい。ということは、Torielさんはしばらく独り身だったのだろうか？
「……これは」
俺は思わず立ち上がって本棚の近くの壁に貼られている絵の場所まで歩いた。
(家の前にある木の絵……)
それだけなら、別にここまで注目はしなかった。けど、ただの木の絵ではなかった。
(まるで……俺が描いたような絵だ)
あまりにも俺の画風と似ていた。被写体が同じだからとかそう言ったレベルではなく、俺の癖などが見られる絵なのだ。
「あら、A？その絵がどうかしたのかしら？」
「えっ？あぁ、いや庭の木なのかなって思って」
「その通りよ。とっても上手に描けているでしょう？」
「そうですね……もしかしてTorielさんが？」
何気なく聞いてみればTorielさんは小さく笑って首を横に振った。
「違うわ、昔ここにいた我が子が描いた絵なの」
「むかし……ですか」
「えぇ、その子はあるべき場所へ帰っていったから、それからは会ってないわ。でも、今でも私の大切な子の一人なの」
きっと幸せだっただろうな。Torielさんと会って間もないけど、見ず知らずの俺にこんなに優しくしてくれる人にこんなにも想われているなんて……きっとあるべき場所に戻るのも辛かったに違いないだろう。
「貴方は驚くかもしれないけど、その子の名前もAだったのよ」
「……え？」
「それに加えて絵を描くのが好きなのも貴方と同じ。ただの偶然とは思えなくて……」
それに加えてとても似た絵の画風……。どういうことなんだろうか？
「でも、その子は貴方と違って人間ではなくてモンスターだったんだけどね」
「そ、そうなんですか」
ということは俺とは別人だな。気付かないうちに、この世界に迷い込んだことがあるのかと自分を疑ってしまった。
でも、本当に画風が似ている。多少違うけど、言うなれば俺の進化した先の絵柄。長所が伸ばされているんだ。
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作者名：アルフ | 作成日時：2020年1月19日 18時
