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あれから何年もの月日が経って。何度も涙を流す夜を越えて。漸くまともに立てるようになってきた。失ってからその大切さに気付くとはよく言ったもので、本当にその通りだった。
傑の存在が私の中でどれだけ大きくて、どれだけ大切だったのか、思い知らされる数年間だった。
そうやって、今まで、生きてきた。
ゆっくりと消化して、受け入れて、少しずつ忘れながら。
思えば、忘れていくことが私を楽にさせたのかもしれない。
傑のことを、彼との思い出を、ひとつずつ忘れながら。失ったものの場所に、新しい大切なものをしまっていきながら、傑の記憶を遠ざけていく。
それは悲しく、苦しいことでもあったけれど、同時に安らかな時間でもあった。
『忘れていいよ』
その時間をくれたのも、傑だったけれど。
『私のことは忘れて、君は君のままでいて』
最後に彼は私にそう言った。
忘れない、忘れられるわけがないと思った。
何を勝手なことをと思った。その時は。
だけど、案外忘れていくものだな、なんて思う。
『君のことが好きだ』
彼にしては緊張したみたいで、顔を赤くして、私にそう言ってくれたこと。
『本当かい?……嬉しいな』
私も好きだよと告げると、気恥ずかしそうにはにかんだ笑顔も。
『抱き締めても、いいかな』
いい、って答えるよりも前に抱き締められたときの、重なった体温も。
多分これから忘れていく。
もう既に、パズルのピースが欠けているみたいに、忘れていっている。
そうすることしか出来ない、私には。
車は進んでいく。物思いに耽る私を運んでいく。
このまま彼のことを何もかも忘れた私にならないかな、なんてことを思う。
忘れていく。忘れていく。
そう思うことが、今は少し悲しいから。
やがて車が止まる。
扉を開けると、先に着いていたらしい教え子たちが待っていた。
「遅い。いつまで待たせんだよA」
「真希、Aだって任務から来たんだからそう言ってやるなよ」
「ツナ」
真希、パンダ、棘。
悟と私の教え子たち。
私の新しい、大切なもの。
「ごめんごめん、ちょっと押した」
私は笑って手を合わせ、彼女たちに歩み寄る。
忘れていく。
いつかは跡形もなく、消えてなくなるのかな。
そうなのかもしれない。
でも、その度に、忘れていく度に、きっと新しいものを拾っていく。
そうやって、生きていくしかないんだろう。
「そういえばもうすぐ転校生が来るんだっけ」
「あー、そういやんなこと言ってたな」
「高菜」
そうやってなんとか生きてるよ。
傑。
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徳永(プロフ) - 戻ってきてくれて嬉しいです‥!!相変わらず最高です (10月27日 16時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作成日時:2023年9月27日 17時