3 ページ3
・
部屋に帰ってから、ずっとずっと夏油くんが落としていった言葉を頭で反芻させていた。
『好きだよ』
好き。
好き。
好き!?!?!?
大混乱とはこのことだというくらいに大混乱に陥った。頭を抱え、目を見開き、頭をフルに回転させた。
何かの間違い?いやでも彼はその言葉の直前に私の名前を呟いていたのを覚えている。
幻聴?夢?眠っていたからその可能性はあり得るけれど、肩に掛けられた彼の学ランから伝わった熱と、頭に乗った手のひらの感覚はとても現実味があった。
ならば彼が誰かと間違えるなどしている?いやそんな間違いを彼がするはずがない。
嘘?夏油くんは嘘をつくような人じゃない。しかも眠っていて聞こえていないだろう私に嘘をついたって無駄である。
つまるところ、夏油くんは私に確かに、『好き』の言葉をくれたのだろうか。
でも、そんな、夏油くんが私なんかを好き?
そんなことあり得るのかな?
でも、でも、でも。
ぐるんぐるんと回る頭が、遂にぷしゅー、と煙を吹き出して、私はベッドに倒れた。
「…………わかんない」
だって、夏油くんは私の好きな人で、大好きな人で。
そんな人が私のことを好きだなんて、そんなの突然言われても意味が分からなくなるし、信じられるわけがない。
だけど。
『好きだよ』
その声を、言葉を思い出すだけで、心臓がうるさくて、顔が壊れたみたいに熱くなる。
「………すき」
私も、夏油くんが好き。
「なんて言えないよぉぉぉ」
情けない声を漏らしながら枕に顔を埋めた。くぐもった声が部屋に満ちる。
夏油くんが私のことを好き。
私の好きな人が、私のことを好き。
そんな可能性を思って、ふわふわする気持ち。
幸せなような、不安なような、リアリティがないような。夢でも見てたのかなってやっぱり思ってしまう。
聞いてみる?
明日、会ったときに『昨日私に好きって言った?』って。
……聞けるわけがない。
違った場合のことが恐ろしすぎるし何より恥ずかしいしそんな度胸はない。
私はぽかぽか枕を叩きながら恥ずかしさやら自分への情けなさやらを誤魔化して、はぁぁ、と溜め息をついた。
「どーしよ」
明日どんな顔をして教室に居ればいいんだろう。
どんな態度で彼の隣の席に居ればいいんだろう。
生憎席は隣り合っている。
夕方に居眠りをしてしまったからか、それともまた別の理由か。
この日はどうしても眠ることがうまく出来なかった。
12人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
徳永(プロフ) - 戻ってきてくれて嬉しいです‥!!相変わらず最高です (10月27日 16時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作成日時:2023年9月27日 17時