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肩を揺すられる感覚で意識が浮上した。
まどろみの中、誰かが私の肩に手を置いて、何か声をかけながら私を揺らしている。あぁ、起こしてくれているのか、と眠りから浮上したばかりの思考でそう理解する。
ここが何処だとか、何をしていたかとか、そういう事細かなことはボーッとしていて分からないけれど、私は眠っていたようだ。
そしてゆっくりとした速度で意識が覚醒してくる。
聞こえてきた声は、同級生のものだった。
同級生で、私の好きな人。
夏油傑くん。
「A」
優しい声。大好きな声。
その声で名前を呼ばれると、なんだかくすぐったい気持ちになる。心を柔く撫でられているみたいな、心地のいい感覚。
ずっと聞いていたいな。出来れば彼の一番近くで。
欲張りになってしまうくらい、独り占めしたくなるくらい、私はその声が、声の主のことが大好きだった。
「風邪を引いてしまうよ、こんなところで寝ていたら」
優しく落ち着いた声に、眠気がまた増してくる。
好きな音を目覚ましにしていると気持ちが良くて更に眠ってしまいそうになるのと同じような、彼の声にはそういう作用がある。
起きなくちゃ、心配かけてる、と行ったり来たりする意識で思うけれど、ここで居眠りしていたら、夏油くんはずっと傍に居てくれるんじゃないかって、そんな想像をしてしまう。
彼の優しい声に、ずっと呼ばれていたい。
心地よさに身を任せて、静かに呼吸を繰り返した。
すると、ふわっと、嗅ぎ慣れない香りが私を包んだ。暖かくて、間接的な体温を感じた。
それで少しまた意識が浮上して、自分の背中になにかが掛かっていることがわかった。
なんだろうこれ、と思っていると、頭に手をそっと置かれて、柔らかく撫でられた。
まるで赤子に触れるように丁寧に、優しい手付き。
それで目を開こうとしたその時。
「……A」
名前を、呼ばれて。
「好きだよ」
落ちてきたのは、甘やかな言葉。
へ。
声にならずに心の中でそんな一文字を何度も重ねた。何を言われたのか、その言葉がどういった意味なのか、理解するのに時間を要しすぎた。
そう言って夏油くんは、歩いて教室を出ていく。その気配がして、私は机に突っ伏していたらしい上体を起こして、夕焼けに燃える教室の扉を呆然と見つめた。
肩に掛かっていたのは、げとうくんの学ランだった。
そして漸く出た声。
「へ」
何が起きた、今。
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徳永(プロフ) - 戻ってきてくれて嬉しいです‥!!相変わらず最高です (10月27日 16時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作成日時:2023年9月27日 17時