かけがえのない ページ37
目に涙を浮かべながら笑う私を見て、五条先輩が親指でそっと私の目元を拭った。
「泣いてないですよ」と言うと、「泣きそうだったから」と返された。
それが少し悔しくて、私は五条先輩の胸倉を掴んで、力いっぱい自分のもとに引き寄せる。そうして少し背伸びをして、五条先輩の唇に自分の唇をくっつけた。
…背伸びをやめて離れると、頬を染めてしかめっ面をする、五条先輩の顔。五条先輩は、私からのキスに慣れていない。自分からはしょっちゅう不意打ちでキスをしてくるくせに、私がすると「びっくりさせんな!」と怒る。それが面白くて、こうして仕返しをしたい時に使う奥の手だ。
「五条先輩」
「…何」
「夢なら、私もありますよ」
「お嫁さんになりたい、ってやつ?」
「あの時から少し変わったんです」
『お嫁さんになりたいです』と書いた、いつかの作文。あれはきっと―――そう、私は漠然と、『唯一無二の愛』に憧れたのだ。
この人しかいないと思う気持ちはどんなものか、子供ながらに興味が湧いた。結婚したいと思うほどの『好き』は、どんな感じなのか。それが知りたくて、そんな相手が、いつか現れたらいいなって。
―――けど、今は違う。もう、私は分かった。好きって気持ちも、この人じゃないと嫌だという感情も、…私が一番じゃなきゃ嫌だっていう、醜い感情も、全部。
五条先輩が、教えてくれた。
だから―――
「私の夢は―――五条先輩の、お嫁さんになることです」
私、もうとっくに…五条先輩じゃないとダメになっちゃったんです。
「―――これは、少し我儘かもしれないですけど。五条先輩には…私のために、生きて欲しいです」
五条先輩がきちんと目を見て言ってくれたのだから、私も目を見て伝えよう。
少し照れくさいけど、今日は、卒業の日。桜咲くお祝いの日だ。だからきっと、これくらいがちょうどいい。…たまには五条先輩も、私の言葉で照れたらいい。いつものお返しだ。
「私の夢を叶えてくれるのは、五条先輩がいい」
五条先輩は、軽く目を見開いた後―――今までで一番綺麗な、とっても素敵な笑みを浮かべた。
「―――ああ、必ず。お前のために生きるよ」
だからお前も、俺のために生きろ。
そう囁かれ、ざあっと強く吹いた風の中―――そっとキスを贈られる。
まるで、誓いのキスだ。
きっとお互いに同じことを思って―――私たちは春のど真ん中で、顔を見合わせて笑った。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時