彼をよろしく ページ30
私が微笑むと、それに呼応するように小さな笑みを浮かべる夏油先輩。
その目はどこか冷めたような色を持ちながらも、少しの期待が入り混じったような、曖昧な色をしていて。私が期待通りの答えを出すのを、待っているような。
…だから私は、その質問に答えるよりも先に、夏油先輩に尋ねてしまう。
「…夏油先輩、やめちゃうんですか」
「え…?」
「だって、人に聞くってことは、自分がそう思ってるってことでしょう?」
灰原のこともあってか、以前よりも疲労の色を濃く映したその姿。疲れた、苦しい、辛い。この絶望を誰かと共有したいと、その目が訴えているように見えた。
夏油先輩が驚いたように目を見張って私を見る。けれどすぐに呆れたように笑って、…以前もしてくれたように、私の頭の上に、ぽんと手を置いた。
「宮井って、実は結構鋭いよね。一年の頃は、ぼけっとしてたくせに」
「…私だって、成長中ですから」
「うん」
何が可笑しいのか、くすくすと笑う夏油先輩。わけが分からず見つめていると、夏油先輩は「よいしょ」と立ち上がって、私に告げた。
「ありがとう。何か、スッキリした。宮井はどうか、そのままでいてね」
「え?どういう―――」
「そのまま…まっすぐなままでいてね、ってこと」
その去り行く背中からは表情を読み取ることすらできず、とてもその言葉の意図を考えることは不可能だったけれど。
「悟をよろしく」
吹っ切れたような清々しい声で、まるで遺言のように呟かれた言葉が、今でもずっと頭の中にこびりついて離れない。
どうしてそんな最期みたいなこと言うんですかって、聞きたかったけど…「追いかけて来るな」と言いたげなその背中を見たら、とてもそんな勇気は出なかった。
この時私は、ほんの少しだけでいいから、夏油先輩のことを気にかけるべきだった。
単に任務続きで疲れているんだろうと勝手に決めつけて、見ないふりをするんじゃなくて。きっと私なんかが聞いても力になれないと諦めるんじゃなくて。どうしたんですかって、聞けばよかった。本当にやめちゃうんですかって、言えばよかった。
結局私は、肝心なところでは何も成長していなかった。
…後悔してももう、遅いけれど。
吹き抜けになっている場所から、生暖かい風が吹いてくる。
その風が私を現実へ引き戻し、私は授業のために教室へと戻った。
―――結局それが、夏油先輩との、最後の思い出。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時