どうか、安らかに ページ28
私たち一年生の教室には、机と椅子がそれぞれ三つずつ、横一列に並んでいる。
その内の一つ―――真ん中の席がもう二度と埋まらなくなったのは、本当に突然のことだった。
その席の主―――灰原が先日の任務で帰らぬ人となってしまったことを、私は担任の先生から、電話で教えられた。その日は三人とも任務で外出していたが、翌日にある座学の授業には全員が出席できる予定だった。
…「久しぶりに三人揃うね」と、話したばかりだったのに。
もう二度と三人揃うことはないのだと分かったとき、私は泣いた。
翌朝…いつもより早く教室へ行くと、そこには先客がいた。
「…宮井か。おはよう」
七海だった。
七海は静かな声で私に挨拶をした後、手に持っていたものを、ごと、という静かな音とともに灰原の机に置いた。
昨日の任務でのことは先生から聞いている。七海も怪我をしたようだし、今日は欠席するものだと思っていたから、そこに七海がいることに対して私は少なからず驚いていた。…と同時に、心配もした。
疲れ切った様子の七海を見ていられなくて、私の視線は七海の手元へと移る。
白い陶器の花瓶から伸びた、鮮やかに咲き誇っている花弁。そのひらひらと揺れる花には見覚えがある。…スイートピーだ。
「どうした?そんな顔して」
「……今日、来ないと思ってた」
「授業サボったら、灰原に叱られるからな」
そう、目を細めながら呟く七海。自嘲気味に笑うその顔はどこか泣きそうに見えて、私は腕に抱えたものをぎゅっと抱き締めた。
するとこちらにふっと視線を移した七海が、私の腕の中を見て微笑む。そうしてここに供えてやれと言いたげに、七海は灰原の机の上をとん、と叩いた。その目に促され、私は腕に抱いていた花束をそっと解き、七海が置いた花瓶の中に挿した。
「…綺麗だな。シオンと―――これは、何だ?」
「朝顔だよ。白い朝顔」
「…なるほどな。白い朝顔なんて初めて見た」
「うん。…気に入ってくれるかな」
「宮井が選んだ花なら何でも喜ぶだろうな」
「そうかなぁ」
殺風景な教室に不釣り合いなその花たちと、やけに静かな時間が―――ああ、もう、本当に、いなくなっちゃったんだなぁ、と思い知らされるようで、とてつもなく嫌だった。
けれども七海と私の真ん中で咲く花たちは、なぜか微笑んでいるように見えて。
せめて、友が安らかに眠れますように。
そう祈りを込めて、私たちはしばらくの間、黙って目を閉じていた。
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つく(プロフ) - のみさん» のみ先生ありがとうございます…!のみ先生からの励まし、とても力になりました。今後ともよろしくお願いいたします…! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - へかーてぃあ@夢見月*小夜セコム隊さん» オワァ!最初から読んでいただいてありがとうございます…!続編についてもいつか公開すると思いますので、また楽しんでいただけるよう頑張ります! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 晩鶴紫呉さん» ありがとうございます〜!続編についてもぽちぽち書き進めている最中ですので、いずれ公開します! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - はにゃさん» ありがとうございます!続編もいずれ公開されると思いますので、その際はよろしくお願いします〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
つく(プロフ) - 五音さん» コメントありがとうございます!続編については制作中ですので、ある程度アップできる状態になったら公開しようと思います〜! (2021年2月20日 13時) (レス) id: 90f06cbeae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:つく | 作成日時:2021年1月16日 1時