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『…小道具、手伝ってくれてありがと、』
「おん、全然、」
『じゃあまた…明日。』
「うん。…あのさ。普通に、明日も、喋ろな」
『なんやねん、当たり前やん、』
普通に、当たり前に。そう約束はしたものの、
結局気まずさは残り、前の関係のままではおられへんかった。
段々と喋らなくなってしまって、そうこうしている内にNSCの全課程は修了し、
いつの間にか別々の道を歩むこととなっていた。
そんなあの頃、あの日の光景は、あまりにも鮮烈で、脳裏に焼きついていたが、
なるべく思い出さないように過ごしていた。
***
『すいません!お待たせしました!ロケ始めます!』
呼びにきたスタッフさんの声で、現実に引き戻される。
今行きます、と返事をして、身なりを整えて、
ロケバスを降りる。
空調の効いていた車内とはまるで別世界、
違う惑星に来たんかなと思うくらいに、
外は暑かった。
しかし涼んでいた俺らとは違い、
外で準備してくださっていたスタッフさんたちはすでに満身創痍で、汗だくになっていた。
その姿を見てありがたいなと思う。
そんな彼らに報いるためにも、しっかり成果を上げたいと気合を入れ直す。
「よろしくお願いします」
挨拶をして回っていると、ディレクターと喋る一人の女性と目が合った。
え、あれ、嘘やろ。
『…久しぶり、風斗。』
今の今まで、ずっと脳内で再生していた彼女の顔が、そこに合った。
「えっ?なに、どう言うこと、A?」
俺が驚いて大声を出すと、なかむらもAに気づいて駆け寄ってきた。
『えっ!ガチ?!Aめっちゃ久しぶりやんか!なんでこんなとこおんの!』
『へへ、私今作家の見習いみたいなんやってんねん』
ニッと口角を上げて笑う笑い方が当時と変わっておらず
なんだか心がキュ、っとなる。
『まじ?え、知らんかったわ〜!』
『せやねん、今日あんたらの活躍見させてもらお思て、無理言って同行させてもろてん』
あの頃目指した夢の、道筋は違っても方向が同じだったことに感動する。
また仲間として、夢を追うことができるんだろうか。
(…仲間?)
そこまで考えて、自分の思考に疑問が湧く。
あれ以来、閉ざしていた気持ちの蓋が開いた。
そうだ、俺は、仲間なんかではなくて、
無性に会いたかったんだと、今更になって気付いたのだった。
こんな風にひどく蒸し暑い日
季節は巡り、気持ちも巡り。
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作者名:yucari | 作成日時:2024年3月15日 2時