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『…なあ、なんか、展開、おかしくない?』
冷房によって体の熱が落ち着いたはずのAの頬は、
この映画の内容によってまた赤くなっていた。




「うん、これは、あかんな。」


内容は大方が濡れ場で、恋人でもない俺たちの関係で観るには
少し刺激が強すぎて、終わった後気まずい雰囲気になるのは
避けられなさそうな内容だった。


(恋人同士でも気まずいわこんなん、どうしよ)




出るべきか、素知らぬ顔をして平然を装うべきか悩んでいると

『なあ、これってあれやんな、むしろ一周回ってアートなんちゃう』
そんなことを言い出した。



ポジティブなところ、今発揮せんでええねん、
そう思ってツッコもうと思った。

思った、んやけど。







やっぱり暑さで頭が溶けていたんだろう。

耳元で囁く彼女の声と、汗と混じった香水の匂いがやけに気になって。



(あかん、あかんぞ、俺。)








自分の奥底から湧き上がる、この感情。
と言うより、欲望だろうか。


熱を冷ますために着ているTシャツでパタパタと風をつくって、
スクリーンをじっと見る横顔を見つめていると、
ふとAが振り向いて、パチ、と目が合った。









目が、合ってしまったのだった。









それからはあまり、細かいことは覚えていない。


映画の行方も、どうやって家まで辿り着いたのかも。
会話はなかった、そんな気がしたけれど、
きっと気持ちは同じだということだけ、お互いが解っていたように思う。





部屋に入るとすぐに、俺らは唇を重ねた。重ねた、なんて
大人しいものではなかったけど。

それからはただただお互いを求め合った。
暑くて、熱くて。エアコンもない部屋だったが、
窓を閉め切って、ただ夢中になっていた。







二人で色んなものを出し切って、窓を開ける頃には、
もう陽が落ちて涼しい風が入ってくるようになっていた。


夜風にあたりながら、麦茶を飲んで、
無言のまま、二人で街を眺めた。


俺は何も言えなかったし、Aも何も言わなかった。






アルコールも飲んでいないのに、理性が飛ぶような経験は始めてで。
自分を、また彼女をこうさせた要因はどこにあったのか、
夏の
暑さのせいなのか。そのせいにして、よいものか。


考えても答えは出なくて。
若かった俺は、どうしたってその状況を打破する技量を持ち合わせていなかった。


今なら、そのままで終わらせたりはしないのに、と思う。

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作者名:yucari | 作成日時:2024年3月15日 2時

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