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今行きまーす!と言って彼女は出ていってしまった。
取り残されて唖然としていると、そのやりとりをみていたケムリさんが耐えきれず笑い出した。
『もう、お前勝てないわ。一生Aに振り回される未来が見えるわ』
「いやいやいや、えっ?何?YESって何?どう言うこと?」
『ダメだ、もうハマっちゃってるわ、沼に』
「えっ?俺のこと好きなの?」
『知らねーよ、本人に聞けよ』
「代わりに聞いてよ!」
『やだよ』
そんな風にいじられていると扉がバン!と勢いよく開いた。
『おい!くるま!袖で私の活躍指咥えて見とかんかい!』
「びっ……くりした!う、羨ましくねーよ?」
『袖から見る私もめっちゃ美人やねんで?勿体無いやろがい!』
「ええっ、ごめんなさい???」
『ほら!遅れんで!!!』
なぜ怒られているのかわからないまま、手を引かれて舞台まで全力疾走した。
すでに出囃子は鳴っているし、スタッフさんたちは不安そうな顔をしていた。
俺と、スタッフさんと、お客さんと、いつもみんなこの子に振り回されている。
だけどなんだか許されてしまう。それは彼女の天性の魅力?、魔性のせいなのか。
『…ふふ、ちゃんと見といてな、直樹』
「えっ、なっ何っ」
それだけ言うと、手をパッと離した。
そして俺が選んだグリーンのジャケットをひるがえして颯爽と舞台へと出ていった。
俺は早くなった心臓の鼓動を、全力疾走のせいにした。
そしてその、なんの答えも出ない混乱のまま、宙ぶらりんのまま、
結局また彼女の一挙一動に目を奪われてしまっていた。
ああ、やっぱりどこから見ても。
君は全方向美少女。
(君の魅力は、困ってしまうほどに)
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作者名:yucari | 作成日時:2024年3月15日 2時