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《「ごめんなさい！」》
ぶつかったはずみで書類がバラバラと散らばる
定時前にマーケティング課に向かって
少しぼーっと歩いていると
死角になっている曲がり角でやってしまった
慌ててしゃがみこんで書類をかき集めて
もう一度謝ろうと顔をあげると
「Aヌナ」
目の前で少し頬を赤く染めながら照れたように
私の名前を口にしているカレ
少年のようにハニカミながらも
低くて甘い・癖になるようなその声
そして
めがねの奥の
吸い込まれそうなあまりにもキレイなその瞳に
一瞬時が止まったかのように体が動かなくて
《めがねくん》
気がついたらそう口から出てしまっていた
「めがねくん・・・ですか？」
まためがねが少しズレていて
ぽかんと口を開けたまま固まっているカレ
お魚が呼吸するように時より口をパクパクしている
そうかと思っていると
そのキレイな瞳を隠すようにして
口を硬くキツく結んで
とっても不思議そうに私を見つめている
そんな姿や表情一つ一つから目が離せなくて
ずっと見ていたい
何だって良いから話していたい
どうにかして・・・
だけど
《いやっ！そのごめんね！！》
《大丈夫だった？》
たぶん、
打ち合わせかなんかで呼ばれているはずだし
少しでも早く行かせてあげなくちゃダメだと
そう思ってカレに声をかけると
「こちらこそごめんなさい」
ペコリと頭を下げて謝って
「あのっ！・・・その・・・」
きっと
まだカレは何か話そうとしてくれていたけど
《急ぎだったんじゃ・・・ない？》
私のその言葉に
「行かなくちゃいけません」
我に返ったカレがめがねをぐいっと上げる
「Aヌナ、ありがとうございます」
そう言って歩き出したカレ
いつまでも
その後ろ姿から目が離せないでいると
定時を知らせるお決まりのチャイムとともに
やっと自分の席に戻るために歩み始めていた
【Aヌナ・・・って言ってくれてた】
【めがねくんなんて言っちゃった】
頭の中はもうカレのコトばかり
『Aちゃん、訂正してもらった？』
課長の質問にハッとなり
《席外しでした。打ち合わせ中で・・・》
咄嗟の私の言葉に
『じゃあ明日、よろしくね！』
そう言ってくれるから
明日もまた会えるんだ
明日も顔が見れるんだ
心が弾むことを久しぶりに感じていた
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作者名：くじら | 作成日時：2017年5月15日 18時
