●人の顔は心理の鑑である。 ページ9
またもや詳細を聞き出そうと先走りそうになると、彼女は実に自然な動きで視線を手元の腕時計に落とし、口を開いた。
「そろそろお仕事に戻りませんか」
その口振りからも表情からも不自然さはなく、話を逸らそうとしたというよりもただ単純に時間を気にしているようだ。
いや、何故そもそも彼女が話を逸らそうとするかなんて分からないけれど。
そろそろ引き際だと察する。
相手がこう切り出した場合、大抵は拒否は出来ない。
また彼女への興味が高まった所でお預けだなんて、煽るだけなんだけれど。
彼女への私の興味に深い意味は無い。
ただ結構な月日が経った割にまともに知っていることがほとんど無いのも可笑しな話だからで。
強いて言うなら同じ異能力者としての興味が一番、強いかもしれない。
「Aさん、今度一緒に飲みに行きませんか。良い店を紹介しますよ。そうですねぇ、今週末なんてどうでしょう」
すると彼女は私の声にティーポットを片付ける手を止めて何か手帳を取り出す。
古びた茶色の、でも上質だと分かる革の手帳だった。
そこにさらさらと何か書き込むと、ぱたんと閉じて「はい」と答えた。
「まだお話しましょう。聞きたいことはまだまだありますから」
「何だか警察の尋問みたいですね。お聞きしたいのは私の異能力でしょう?」
息を吐くような笑い声を上げてから彼女は言った。
柄にもなく虚を衝かれたように彼女の顔を見たけれど、その表情はとても意味ありげには見えない普通の顔だった。
善人さが滲み出た、平和で穏やかな、彼女の顔。
その顔を見た瞬間、先程の言葉は深い意味は無かったのだろうと悟れた。
素直に言わない私も悪かっただろう。
何故、異能力者の貴方に興味がある、と伝えておかなかったのか。
悪い、という程でのことでもなかろうに。
「ばれてしまいましたか。探偵社員ですからつい。でも勿論、Aさん自身にも興味は充分ありますよ」
「私も太宰さんに興味があります。…お誘い有難うございます、是非ご一緒させてください」
彼女の表情や言葉に深い意味を探そうとする方が馬鹿げているのかもしれない。
私の目の前に立つこの女性は確かにミステリアスな雰囲気を何処かに漂わせているけれども
普通の女性で、素直でとても何か奥底に尖ったものを秘めているようには見えない。
少なくとも今の所は嘘を吐きそうな人柄には見えない。
第一、そんなことをしてもメリットは無いだろう。
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柏(プロフ) - 蒼霧零夜さん» 初めまして、いつもありがとうございます!このような稚拙な作品ながら楽しんで頂けているようで非常に嬉しいです!後半に突入しましたので最後まで楽しんで頂けるように頑張ります! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
蒼霧零夜(プロフ) - 初めまして、蒼霧零夜です。何時も楽しくこの作品を読ませて頂いています。これからも、更新を楽しみに待っています! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1854068e39 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - あざる!さん» ご指摘くださりありがとうございます。私が操作している訳ではないのですが、更新するとそうなってしまうようです。今まで指摘もなくこちらとしましても特別不便なことはないので放っておいていました。正しい作成日時はこのページの一番下に記されております。 (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - 草神 桜月さん» 嬉しいです!イメージは日常なのであまり勢いづかないように書くよう心がけています。勿体無い程のコメントで非常恐縮です。ありがとうございます! (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
あざる! - いつも新着順に乗ってるんですけど、どうやってるんですか? (2019年7月6日 21時) (レス) id: bcf0550a7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柏 | 作成日時:2019年2月26日 17時