●びいどろ色の味。 ページ37
しゅわしゅわ、と音がする。
泡が弾けてなんとも見た目爽やかだった。
何年ぶり単位でラムネを飲む。
少し頬の裏を刺激する炭酸。
不思議だなぁ、と思う。
感じるのは味なのになんでこんなにも、清涼と爽快さのある飲み物なんだろうと。
喉への刺激もまた程よく、すっきりとした甘味が残った。
音も見た目も飲んだ感覚も全部、懐かしくて私は何かそこに引っ掛かる。
もしかしたら、と思い出そうとしてみる。
あーでも何もないな、と直ぐに分かって潔く諦めた。
こういうことはよくあって思い出せそう、と思っても思い出せないから諦める。
それよりも実際に書いてあるメモの方が正確だ。
乱歩さんは私より歳上なのに、失礼だとは思うけど趣味が子供みたいな所があるから、懐かしい、という感情に一杯触れ合える気がする。
ラムネの味も瓶の中のビー玉も駄菓子屋のこのベンチから眺める景色もそう。
時折、大人二人が並んでラムネを飲んでいる姿を不思議そうに見る人もいるけれど、まるで他人事のように私はその人を見ることが出来た。
此処だけいつもの社会から遮断されたみたいにゆっくりと時間が流れている気がする。
さっきまで事件現場にいたとは思えなくて可笑しい。
勿論、この時間は予定より早く仕事が終わったからあるものでずっとのんびりとはしていられないことは分かっているけれど。
私が半分と少し飲み終える頃には、乱歩さんはビー玉を透かして遊んでいた。
全く同じことを探偵社でしていたのを思いだしつつ、乱歩さんがビー玉に飽きたら置いてかれてしまうので飲むペースを速める。
でもあともう少しで飲み終える、という時になって乱歩さんはビー玉をポケットに入れてしまった。
私が慌てて渡しそびれていたキャラメルの箱を
差し出すのと、乱歩さんが「あのさぁ、」と切り出すのはほぼ同時…一瞬私が早かったと思う。
乱歩さんはキャラメルの箱を満足気に受けとると、一個取り出して包み紙を剥がし口に放り込んだ。
気に入って貰えたみたいだけど、私は取り敢えず残ったラムネを飲みきる。
乱歩さんはむぐむぐと、キャラメルを食べていた。
飲み終えた時自分で遮ってしまったけれど先程は何を切り出そうとしたのか気になった。
彼が私に話し掛けること自体珍しい。
再び沈黙が訪れかけた頃、私は自分から訊ねてしまった。
「先程何を言いかけたのですか?」
乱歩さんは数秒黙って「あーあのこと?」と切り返した。
和な空気が少し変わった気がした。
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柏(プロフ) - 蒼霧零夜さん» 初めまして、いつもありがとうございます!このような稚拙な作品ながら楽しんで頂けているようで非常に嬉しいです!後半に突入しましたので最後まで楽しんで頂けるように頑張ります! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
蒼霧零夜(プロフ) - 初めまして、蒼霧零夜です。何時も楽しくこの作品を読ませて頂いています。これからも、更新を楽しみに待っています! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1854068e39 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - あざる!さん» ご指摘くださりありがとうございます。私が操作している訳ではないのですが、更新するとそうなってしまうようです。今まで指摘もなくこちらとしましても特別不便なことはないので放っておいていました。正しい作成日時はこのページの一番下に記されております。 (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - 草神 桜月さん» 嬉しいです!イメージは日常なのであまり勢いづかないように書くよう心がけています。勿体無い程のコメントで非常恐縮です。ありがとうございます! (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
あざる! - いつも新着順に乗ってるんですけど、どうやってるんですか? (2019年7月6日 21時) (レス) id: bcf0550a7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柏 | 作成日時:2019年2月26日 17時