◆そして、更け行く。 ページ27
寮に着いて別れる瞬間の彼の「また行きましょう」の声に今日のお礼と微笑みを返して、私達はお互いの部屋に戻った。
殺風景な私の部屋は、片付けたばかりだから物もあまり置いていない。
小さな台所には買い集めたティーセットが小ぢんまりと置いてある。
とても本格的とは言えないけれど、愛着があった。
それだけは何だか仕舞う気が起きなくて、この部屋に来た当初からずっと同じ場所に置いてある。
あの時に飲んだ紅茶に近付けたくて。
どう美味しかったのか今、私が淹れる紅茶とは何が違うかすら分からないし、あの人が好きな茶葉が何なのかも分からないのに、私は何となく趣味として紅茶を淹れることを日課にしていた。
でも本当は。
紅茶を飲むのは好きだけれど淹れるのを練習したり研究すること自体は、あまり好きじゃなかった。
最初はちっとも楽しく感じられなかった。
怖かったのもあるし、逃げたいと感じる自分にも嫌気が差した。
そんなことをして何になるのかも分からなくて、わざと自分で遠回りをしている気がして更に自己嫌悪に陥って。
でも今は全然、嫌いじゃなくなった。
それは紅茶の匂い同様に私の生活に染み付いて馴染んでしまった所為もあるけれど…一番は探偵社の人達の影響だと思う。
事務員の方達にぽろっと話して振る舞ったのが切っ掛けで、気付けば他の人達にも飲んで貰うようになって。
それからこっそりあの簡易キッチンの戸棚の隅に茶葉を置き始めて、ティーコージーを置き始めて、ミルクピッチャーを置き始めて…という風に少しずつ増えていってしまった。
あまり物は多くならないように気を付けているし、持ち帰るようにもしているけれど。
私の中だけに留めて置いていた日課が他の人に触れていくのは、少し不思議だった。
美味しいと褒めて貰えたのは嬉しかったし、また飲みたいと言ってくれる人がいたことが幸せで私は多分、紅茶を淹れる時彼等の顔を思い浮かべてしまって嫌じゃなくなった。
私は実際、此処最近自分以外とお茶を飲む機会が増えていた。
もっと不思議なのは、その一緒に飲む時間は私と相手を近付けていた。
嫌だった紅茶を淹れるという作業は、気付けば人間関係に不器用な私と相手を繋げていた。
今は何だかお腹が一杯で眠たくてお茶を淹れる気は起きない。
酔いもまだ完全に醒めていない。
二日酔いにならないといいな、と思いながら風呂場へと向かった。
眠りたい今日は、読みかけの小説を読みながら寝ようと思う。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 407人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柏(プロフ) - 蒼霧零夜さん» 初めまして、いつもありがとうございます！このような稚拙な作品ながら楽しんで頂けているようで非常に嬉しいです！後半に突入しましたので最後まで楽しんで頂けるように頑張ります！ (2019年7月14日 19時) (
レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
蒼霧零夜(プロフ) - 初めまして、蒼霧零夜です。何時も楽しくこの作品を読ませて頂いています。これからも、更新を楽しみに待っています！ (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1854068e39 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - あざる！さん» ご指摘くださりありがとうございます。私が操作している訳ではないのですが、更新するとそうなってしまうようです。今まで指摘もなくこちらとしましても特別不便なことはないので放っておいていました。正しい作成日時はこのページの一番下に記されております。 (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - 草神 桜月さん» 嬉しいです！イメージは日常なのであまり勢いづかないように書くよう心がけています。勿体無い程のコメントで非常恐縮です。ありがとうございます！ (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
あざる！ - いつも新着順に乗ってるんですけど、どうやってるんですか？ (2019年7月6日 21時) (レス) id: bcf0550a7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：柏 | 作成日時：2019年2月26日 17時
