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●劣等感と憧憬は紙一重。 ページ13

治癒し終えた時、確か妾は訊いた。


「妾がいなかったらどうするつもりだったんだい?」

「人の役に立てましたから」


それでいいんです、と言いたげに答えたのを妾は覚えている。

あの子の言う人助け、がなんだったのかは未だに分からない。

あの白い肌に傷を作ってまであの子は何をしたのか。

だが、か弱い娘だと思っていたあの子が思ったよりも強かだったと妾は思った。

後腐れなく傷付いてまで人助けが出来るあの子に壁を感じていたのが馬鹿馬鹿しく思えた。

同じ探偵社員だと、遅くなって妾は気付けたのだろう。

だから今は気兼ねなく話しているつもりではある。


まだ何も知らないが、この先この子が妾に話してくれるのを待っている。

アンタは意外と誤解されやすい子だよ、いつもにこにこして芯が無いみたいに見えてしまう。

本当はもっと言いたいことがあるんじゃないのかい?

妾に背中を向けて、お茶汲みをするAにそっと心の中で呟く。

するとAは振り返らずに、独り言の様に呟く。


「思い出しますね、初めて治療を受けた日のこと」


小さな偶然に驚きながらもAとのこういうやり取りには慣れっこで「そうだねェ」と妾は返した。


「アンタの異能力って人の心を読む能力かい?」


冗談召かして妾が訊くと、Aはいいえ、と首を横に振る。


「残念ながら違うんです」


椅子に腰を掛けながら、Aが妾に言う。


「私、与謝野さんの異能力に憧れます」


Aの口から初めて聴く言葉だった。

Aが妾に対してそう思っていたことにも勿論驚いたが、この子に誰かを羨む感情があることにも驚いた。


「驚いたね。それはどうしてだい?」

「与謝野さんの力は人助けが出来ます。苦しんでいる人を助けられる力です」


媚びるようにでもなくAは素直な面持ちで妾に言った。

そんな顔にAは本当に純粋に憧れていてくれてるのだと、妾は思った。

だが妾は言い返す。


「そんなの誰だって一緒さ。使い方で人を傷付けることも助けることも出来る」


妾がそう言った瞬間、突然顔を上げる。

見詰め返すと、訴えるような眼差しで妾を見ていた。

そして口を開き…と思ったら直ぐに口を閉じた。


何か言おうとしたんじゃないのか。

あの時と変わらない、やはりこの子は妾達に言ってはくれない。

隠したまま、あの微笑みを浮かべる。

●紅い香に委ねていた。→←●足跡は今夜の土砂降りに流されて。



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(プロフ) - 蒼霧零夜さん» 初めまして、いつもありがとうございます!このような稚拙な作品ながら楽しんで頂けているようで非常に嬉しいです!後半に突入しましたので最後まで楽しんで頂けるように頑張ります! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
蒼霧零夜(プロフ) - 初めまして、蒼霧零夜です。何時も楽しくこの作品を読ませて頂いています。これからも、更新を楽しみに待っています! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1854068e39 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - あざる!さん» ご指摘くださりありがとうございます。私が操作している訳ではないのですが、更新するとそうなってしまうようです。今まで指摘もなくこちらとしましても特別不便なことはないので放っておいていました。正しい作成日時はこのページの一番下に記されております。 (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 草神 桜月さん» 嬉しいです!イメージは日常なのであまり勢いづかないように書くよう心がけています。勿体無い程のコメントで非常恐縮です。ありがとうございます! (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
あざる! - いつも新着順に乗ってるんですけど、どうやってるんですか? (2019年7月6日 21時) (レス) id: bcf0550a7e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年2月26日 17時

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