●夜中の番人。 ページ1
「こんばんは、Aさん」
「こんばんは、敦さん」
柔らかい笑顔で迎えるその人に、私もにこりと微笑み返す。
雨で濡れたカーディガンを脱ぐと、彼は「今日も雨ですねー」と世間話。
夜勤始業前の僅かな時間。
彼は一人の時間が長かったのか、暇を持て余していたようで私に気さくに話しかける。
「雨の日は洗濯物の渇きが悪くなって困りますよね」
「分かります。あまり部屋の中に干したくないですよね」
少し眉根を寄せて言う彼に私も答えた。
「そういえば敦さん、」
私は彼に歩み寄り、彼の細い腕を軽く掴む。
本当に細い。
少し心配なくらいに。
「昨日の怪我、治りました?昨日は随分、大変だったと聞きましたよ」
「あはは…はい、でも再生能力があるので今朝には傷痕すらありませんでしたよ」
昨夜、土砂降りだった頃に敦君は仕事をこなしていた様で途中で厄介ごとに巻き込まれかかったところで怪我してしまったらしい。
確かに彼の言う通り、シャツの下は白い腕、傷痕一つ見つからない。
「…羨ましいですね。再生能力というのは。私も欲しいです」
「まぁ、確かに与謝野さんの治療を受けることは少なくて済みます」
苦笑しながら彼は言う。
私も出来れば受けたくないものだ。
「血が苦手なものですから。私も怪我はしない様に気を付けないと…」
とはいえど、私は与謝野さんの勤務時間中に怪我をすることは滅多に無い。
日中は事務作業ばかりで外回りはほとんどしない。
今晩だって夜勤は私と彼だけだ。
「あの、」
不意に敦君の顔が神妙になる。
なに、と聞き返すと遠慮がちに口を開いた。
「初めて、Aさんと夜勤をご一緒にさせて頂くのですが…夜勤は基本的に何をなさるのですか?」
「そうでした。ごめんなさい、国木田さんに一任されていたにも関わらず…」
ちらりと手首の腕時計に目を落とすと始業時間、五分前。
…ぎりぎりに気付けた。
夜勤は基本的に週に三日から四日で私は夜勤の日程ほとんどを担当している。
そして三日から四日の内、時には私一人だったりもする。
彼と一緒になったことは一度も無い。
彼は初めての夜勤、ということになる。
「基本的には見回りや、稀に夜に依頼を受けたり…でも今夜は連絡は無かったので大丈夫だと思いますよ」
「分かりました、頑張ります」
夜勤は日中と比べて給与が良いかと言われたら実はちっとも大差はない。
「期待しない方が良いですよ、結構暇な時も多いですから」
407人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柏(プロフ) - 蒼霧零夜さん» 初めまして、いつもありがとうございます!このような稚拙な作品ながら楽しんで頂けているようで非常に嬉しいです!後半に突入しましたので最後まで楽しんで頂けるように頑張ります! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
蒼霧零夜(プロフ) - 初めまして、蒼霧零夜です。何時も楽しくこの作品を読ませて頂いています。これからも、更新を楽しみに待っています! (2019年7月14日 19時) (レス) id: 1854068e39 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - あざる!さん» ご指摘くださりありがとうございます。私が操作している訳ではないのですが、更新するとそうなってしまうようです。今まで指摘もなくこちらとしましても特別不便なことはないので放っておいていました。正しい作成日時はこのページの一番下に記されております。 (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
柏(プロフ) - 草神 桜月さん» 嬉しいです!イメージは日常なのであまり勢いづかないように書くよう心がけています。勿体無い程のコメントで非常恐縮です。ありがとうございます! (2019年7月6日 22時) (レス) id: 1ae1c9db61 (このIDを非表示/違反報告)
あざる! - いつも新着順に乗ってるんですけど、どうやってるんですか? (2019年7月6日 21時) (レス) id: bcf0550a7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柏 | 作成日時:2019年2月26日 17時