《第九話》 ページ10
ここはモストロラウンジ。この学園のいわゆる“紳士の社交場”である。
数多くの舌鼓を打つメニューがあるが、ここは社交場。
本来の目的は会話である。食事はそれに華を添えるための演出の一環だ。
それにも関わらず…
「こ、こちらプリンアラモードです……」
『……おかわり』
「は、はい!!」
Aは意気揚々とn回目のデザートを口にしていた。
好物は牛乳プリン、というようにAはNRC屈指の甘党だった。
残念ながら好物は見つからなかったものの、プリンアラモードというこれまた美味しいスイーツと出会えてAはこれまでにない程感動していた。
「こちら、ご注文のプリンアラモードです」
『……おかわ_____』
「______おかわりはもうありません。 在庫が切れました」
『……!!』
それまでプリンアラモードに釘付けだったAはここで初めて顔を上げた。
淡い色のふんわりとした髪、銀縁眼鏡、口元の特徴的なほくろ。
彼とは実際に会ったことは無かったが資料では何度も対面した。
それも自分の創立した寮の後輩ともなれば。
『君は……』
「現寮長のアズール・アーシェングロットです。 よくぞ来てくださいましたAさん……
……いや、初代寮長と言った方がよろしいですか?」
アズールはその切れ長の目をこれでもかと光らせ、口に怪しく弧を描く。
オクタヴィネル寮に配属されて以来ずっと憧れていた“生ける伝説”に訪ねられる機会なんてそうそう無い。
アズールは鼓動が速くなっていくのが分かった。呼吸が荒くなっていくのが分かった。
もはや禁断症状や恋に近い感情をアズールはAと出会って数秒で感じてしまった。
隙のない動き、流れるように美しい所作。今の自分じゃ絶対に追い越せない壁。
一体この男は何者なんだとアズールは思う。
素人ではないことだけが明らか。
それなのにどんなに調べても学園に来る以前の記録が全くない。
これほどの優秀な奇人なら、なにかしら痕跡を残しているのが普通なのに。
「今日は一体どのようなご要件で?」
絶対にこの際聞き出して弱みを見つける。
そしてこの男を絶対に手に入れる。使用用途は公私で分けよう。
そこまでの算段がついたアズールは尋ねた。
さっきまでアラモード、アラモードと舌を振るっていたAは落ち着いている。
変わらず美しい所作で紅茶を口に含んだAはゆっくり嚥下すると言った。
『自分と契約しませんか?』
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好好爺(プロフ) - 星詠みさん» コメントありがとうございます!!早速更新させていただきました!気づいたら亀更新してしまう作者なので度々教えてくれると助かります……! (9月28日 23時) (レス) id: eeb0faecb7 (このIDを非表示/違反報告)
星詠み(プロフ) - 続きいつでも待ってます‼︎ (9月28日 22時) (レス) @page17 id: 674129e800 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:好好爺 | 作成日時:2023年9月19日 14時