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深澤side
渡辺「そんなに心配なら見に行けよ」
深澤「ナオが起きてるかもしれないから。それで返信出来ないのかもしれないし」
渡辺「…それさ、ナオがAを取られたくなかったとかじゃねーの？」
深澤「だとしたら今更すぎる」
Aの家に行かなくなって、俺は急に空っぽになった感覚だった。
多分自分が思っていた以上にナオとAと過ごす時間が日常になってたんだよな。
今日はなべとうちで一緒に課題をしてて、Aも来るかとLINEしたけど一向に既読がつかないから心配してたところで。
渡辺「好きな人のためとはいえ、よく耐えられんな。
家族みたいに可愛がって、なのに急に嫌われて、そのせいでAにも会えないとか、俺だったら心折れるわ」
呆れた口調だけど、翔太なりに励まそうとしているのが伝わってくる。
でも、俺からしたら、ずっとAを見てきた俺からしたら、こんなの耐えてるのうちに入らなかった。
5年前、おばさんが家を出た時、まだ小さな生まれたてのナオと、始めたばかりの仕事を目の前にして呆然としていたおじさん。
この先への莫大な不安と、言ってしまえば絶望にさいなまれたおじさんを見て、Aはその日から変わった。覚悟を決めた。そして、子どもをやめたんだ。
そこには外部者は想像もできない現実がある。
いくら一番近くにいても、それに立ち向かってきたのは全てAだから。俺の立場では耐えてるうちになんて入らないんだ。
渡辺「でもAに会うかはお前が決めろよ」
深澤「え？」
渡辺「ナオのためとか言ってるけど、じゃあナオがこの先一生Aと関わるなって言ったら、お前離れられんの」
でも、いろんなことを頭の中でごちゃごちゃ考えていた時、翔太の鋭い一言が単純なことに気付かせてくる。
翔太の本気の問いかけに、俺は何も答えられなかった。それはきっと、心のどこかで気付いていたからだ。
Aから離れるって言われるのが怖くて、自分から先に離れたってことに。
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作者名：紫乃 | 作成日時：2022年11月7日 1時
