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「……七五三掛さん」
初見時に読めなかった名前を確かめるように呟くと、彼は満足そうに頷いて、私に向かって手を広げた。
「おいで?」
私が暫く固まったままでいると、強すぎず弱すぎない絶妙な力加減でぎゅーっと抱き締められる。
甘い香水の匂いが鼻腔を擽って、何だか気が緩んで、ふわっとした気分になる。
「何か悩んでる?……おれ、結構そういうの分かるんだよ」
店で働いてたらそういうの分かるようになっちゃったんだよね〜、なんてふわふわ笑う七五三掛さん。
そのマイペースさに飲み込まれてしまいそうになる。
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
そっか、と少し悲しそうに目を伏せた七五三掛さんは「頼ってね」と言い残して仕事に戻っていった。
……彼の優しさに甘えては駄目だ。私にはそんな資格なんてないのだから。
ここにいると甘さに融かされて、本来の自分の目的を見失いそうになってしまう。
そう自分を戒めていると、深澤さんから休憩行っておいで、と無線で指示を受け
少し頭を冷やすがてら休憩を取ることにした。
自室に戻る気力はなくて休憩室に入ると、意外にも人はいなくて、前髪がセンター分けの男の人ひとりだけだった。
彼は私を一瞥した後、ねぇ、と私を手招きした。
「香水、どっちがいいと思う?」
手出して、と言われ促されるまま両手を差し出すと、左右の手首に違った香りの香水を吹きかけられた。
右手首は甘くて爽やかなフローラルの香りで、左手首は柑橘類のフレッシュな香り。
「……右、ですかね。いい香り……」
「でしょ? 蓮(はす)の匂い。俺、蓮っていうから、なんか運命感じちゃって」
お花の蓮と自分の名前を掛けるあたり、可愛らしいホストさんだ。
確か蓮って名前のホストは……目黒さん、だったはず。
目黒さんが私が選ばなかった方の香水を付けているので驚いていると、
「これはAちゃん用に取っとくよ。折角選んでくれたから」
専用香水ね、なんて私の手首を取って首筋に香水を擦り付けてくる。
ふわっと蓮の花の匂いが香って、おれの匂いだ、なんて目黒さんは艶っぽく笑う。
「噂聞いてたけど、想像以上に可愛い子でびっくりした。会えて嬉しい」
ついてるな、後で康二くんに自慢しよ、と目黒さんが仕事に戻ると同時に
もう上がっていいよー、と再び無線越しに深澤さんの声がした。
こうして怒涛の一日が過ぎたのだった。
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優月 - 早く次の回がみたい! (2021年5月14日 21時) (レス) id: 8cdf8fb842 (このIDを非表示/違反報告)
sakihamu87(プロフ) - これからも応援してるので、更新待ってます! (2020年8月30日 11時) (レス) id: 3dbb4413c0 (このIDを非表示/違反報告)
Hi美好き! - とてもこのお話大好きです!無理せずで良いので更新してくれると嬉しいです!楽しみにしてますね! (2020年7月3日 15時) (レス) id: ca22547b02 (このIDを非表示/違反報告)
くり - 初めまして!このお話すごく面白くて続きが気になります、、( ; ; )ゆっくりでいいので更新していってほしいです、、 (2020年6月3日 21時) (レス) id: 21768f6b4b (このIDを非表示/違反報告)
おもち - ほんとにほんとに久しぶりなんですけど、よくリクエストを送ってたもっちーです(笑)やっぱりあやちゃんの文章は好きだなって思います!!これからも応援してます!! (2020年4月17日 22時) (レス) id: f8c7f97da8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayacororo* | 作成日時:2019年8月16日 1時