風味絶佳 (ページ45)

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誰もいないデスクで、昨日の復習をしていると、おはよう、と低い声が聞こえる。

「、社長、おはようございます。」

綺麗にセットされた、オールバックの髪が朝日に照らされている。綺麗な瞳が細められた瞬間に聞こえる、もっとゆっくり出勤してくれて大丈夫だよ、との声。

「あ、いえ、」

「俺もいつもはもうちょっと遅いから。今日はさ、イムさんが、昨日で嫌気がさしちゃったらどうしようかって、心配で早く来ちゃった、ははっ。」

そう言って、悪戯っ子のような笑みを浮かべる社長に、とんでもないです、と伝える。

「この会社、俺が言うのもなんだけど、結構緩い会社だから。ほどほどに、無理せずに、な？」

そう言って、さらり、と私の頭を撫でる社長。
感じた温もりに、心がくすぐられる音がして、ふと、我に帰る。

「イムさんは、学生時代なんかスポーツとかやってた？」

デスクに戻ってもなお、話しかける声に緊張して、あ、えっと、と詰まりながら話す私に、社長が優しい顔を浮かべる。

「そんなに緊張しなくていいよ、本当に。暇を持て余した、ただのおじさんの時間潰しに付き合ってる、とでも思ってよ。」

「いえ……そんな、」

「昔はもっと気軽に話してくれたじゃん。」

そう呟いた社長の声は、静かな部屋の中でこだまして。
昔は、と聞いた私の声もまた、ゆっくりと溶けていった。

「あ、ごめんね。でも、言わないことにしたんだ。ソラちゃんが、気づくまで。」

ふと呼ばれた自分の名前に、むず痒さを感じて、記憶を辿っていく。

そうしているうちに、社長は電話で席を外して、スアさんのデスクが音を鳴らす。

出勤したスアさんに挨拶を済ませると、昨日わからなかったことをもう一度尋ねる。

愛想よく、丁寧に教えてくれるスアさんに感謝しながら、少しずつでもいいから、こんなふうに成長していけたらいいな、なんてぼんやりと思うのだった。