風味絶佳 (ページ43)

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コンコン、と勇気を出して叩いた扉からは、どうぞ〜、という女性の声。

万が一社長と2人だったらどうしよう、という不安からは解放され、おずおずと中に入る。

「失礼します。本日より社長室に配属になりました、新入社員のイム・ソラです。未熟な部分が多いかと思いますが、精一杯頑張りますので、ご指導のほどよろしくお願いします！」

何度も、いや、何十回も練習したセリフを口にして、恐る恐る前を見れば、ワンピースを着た女性、と、社長の姿が。

「イムさん、よろしくね。私はキム・スアです、こんなに可愛い子が来てくれて嬉しい！」

綺麗なお辞儀をしてくださる彼女に、負けじと頭を下げる。
まるで転校生のようにたくさんの質問を受けていると、スア、もうやめてやれ、との声。

「初日で緊張してるところにそんなに聞いてやるなよ。」

「え〜〜、だって〜。」

「はじめまして、ではないんだけど。ここの社長をしてる、チェ・スンチョルだ、今日からよろしく。」

まるでアイメイクを施しているかのような綺麗で、かつ威圧感のある目元に圧倒されていると、そんな緊張しなくてもいいよ、と笑われた。

「実は、私、もうすぐ退社するんです。ふふ、そしたらそこから、社長が1人になってしまうから、急いで配属してもらって。ごめんね、新入社員でいきなり社長室なんて。」

申し訳なさそうに眉を下げて話すスアさんにとんでもないです、と返す。

「イムさんが慣れるまでは一緒に働くつもりだから、大変かもしれないけど、一緒に頑張ろう！」

「こちらこそよろしくお願いします、！」

大変かもしれないけど、というのは只の常套句ではなかったのうで、教えてもらう仕事はどれも応用編のような業務ばかり。
手帳がびっしり、埋まるほどの業務を一通り教えてもらうと、一応これが1日の流れなんだけど、大丈夫？との確認。

＂大丈夫＂というのは、どこからどこを指すんだろう。
大丈夫かどうかすら、分からない。ここで大丈夫じゃないです、と言うことの方が大丈夫でない気がして、雁字搦めになってしまう。