風味絶佳 (ページ39)

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何度擦ったって、光に透かしてみたって、＂採用＂の文字は消えなくて。紙をぎゅっと握って、頬をつねると、やっぱり痛くて、嬉しくて、何度目か分からないガッツポーズを決めるのだった。

大学4年生、華々しくはなくとも、気の知れた友達と楽しく過ごす時間は、勉学という少しのスパイスも相まってあっという間に過ぎてしまった。

「ソラ、内定決まったの！？」

ぎゃーぎゃー、と言葉通り騒ぐミンギュに、うん、やっとだ、と伝えると、自分ことのように喜んでくれた。かといって、構内で、その、幼稚園児みたいなはしゃぎ方はどうかと思うけど。

「あ〜やっと俺の心配事が一つ減るわ。」

ミンギュとは、大学一年生の時に、変な男の子に絡まれているところを助けてもらってからの友達。変な縁、とでもいうものか、気づいたら私の手を引く、お母さんのような存在になっていたのだ。

「ミンギュはもう完全に就活終わり？」

「うん、俺はソラと違って要領がいいから！」

さらっと私を小馬鹿にするミンギュの背中をぽん、と叩く。言い返せないのは、まさに言われる通りだからで、昔から何事も真面目に取り組んでいるはずが、空回りして、なんだかいつも綺麗に上手くいかないのだ。ぼー、っと考えに耽る私をミンギュが引き摺る。

「ちょっと、行くよ、ソラ！」

どこに？と阿呆面で聞く私に、次一緒に情報処理じゃん！と、言い捨てて、もうなんで覚えてないの、とぶつぶつ小言を言っている。

「そんなので、就職して大丈夫？1人でやっていける？」

「また子供扱いして。確かに要領は良くないけど、大丈夫、がんばってやっていくよ。」

「は〜、本当に心配だわ。ソラ、要領も良くないし、どんくさいし、記憶力も弱いじゃん。俺、不安で毎日会社までみにいっちゃうかも」

そう言って、随分高い背丈から長い腕を伸ばして、私の頭に肘掛けるミンギュ。
なんやかんや、お世話になってる彼と離れるのは、私も不安なのかもしれない。