風味絶佳 (ページ32)

今日:2 hit、昨日:9 hit、合計:130,548 hit

12 ページ32

「……あの、うちになんか用ですか？」

「あ、えっと。その、貴女が、私の知り合いに似ていて、その。」

‥‥ダメだ。どんなふうに説明していいか分からない。この子は、自分に捨てられた姉がいることを知っているのだろうか？そして、それが、目の前にいる、ということを。

「……なんか怖いんですけど。」

彼女は、私をキッ、と睨むと、横をすり抜けて、玄関の扉を開けた。

「あの！コク・ソラ、って名前に、聞き覚えはないですか？」

勇気を振り絞って聞いた問いに、知りません、と返事が返ってくるのと、家の中から、彼女の母親が飛び出してくるのは、ほぼ同時だった。

私の顔を見て、ハッとしたような表情を浮かべる目の前の女性を見て、この人が私の母親なんだろうな、と何故か冷静になる。

「‥‥‥私が、誰か、分かりますか？」

どこか面影のある、彼女の瞳を見て、ゆっくりと、聞く。

次に耳にしたのは、はい、でも、いいえ、でもなく、私が一番聞きたくない言葉だった。

「……貴女なんて知りません！」

怒鳴るような声色。そんなの、はい、と言っているようなものではないか。

大丈夫、大丈夫、と震える手を抑えながら、これで最後にするから、と彼女に縋る。

「お母さん、」

「なんで、」

「…………なんで、私を捨てたの、」

奥にいる、妹が、信じられないといったような顔で私を見つめている。なんで、一回そう思ってしまえば、もがくのは最も簡単で。

「あんたなんて、」

言葉に詰まる彼女を、涙ながらに見つめる。

「2人も、いらなかったのよ。」

そう言って、私の肩を押すと、玄関の扉を閉めてしまった。
一瞬の出来事が、長い映画のようで、＂いらなかった＂という言葉だけが頭を駆け巡る。

肩を押された反動で、地べたに座り込んだまま、幼い子供のように、ただ泣くことしかできない。地につけた手が、誰かに包み込まれる感触で、ジフンさんがきてくれたのだと悟る。

「………ジフンさん、ごめんなさい、私、」

「謝るな。ソラは、何も悪くないから。」

わんわん、声を上げて泣く私の背中をさすりながら、ずっと私を安心させるような言葉をかけてくれた。

「私の、私の何がダメだったんだろう、」

「何もダメじゃない。俺は、ソラみたいにうまい料理を作ることもできないし、ソラみたいな綺麗な笑顔だって作れない。でも、ソラの、居場所になら、いくらだってなるから、だから、大丈夫だから。」