風味絶佳 (ページ15)

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スニョンくん、と小さくつぶやいた私の声は、雨音の中でも彼の耳に届いたようだ。首を傾げて私を見つめる彼に、少しだけ勇気を出して伝えてみる。

「あのね、私スニョンくんが朝も夜も似合うんだって知らなかった。」

変なことを口走った私を見て、何も言わないスニョンくんに居た堪れなくなって、平然を装って言う。

「……これ、ありがたく着ておくね、帰ろっか。」

綺麗に畳んでおいたセーターを鞄にしまって、スニョンくんのブレザーに袖を通して一歩を踏み出す。傘を忘れてきたことに気づいて、スニョンくんに伝えるとやっぱりちょっと抜けてる、と笑われた。

送る、と言ったスニョンくんのご厚意に甘えて、短い帰り道をゆっくりと進む。
いつもより近くに感じるスニョンくんの香りとか、スニョンくんの声とか。
好きな人との相合傘はこんなにも緊張するものなのか、と思うくらい体が熱くて、スニョンくんの顔が見れない。

全く止む気配のない雨の中、ぽつり、ぽつりとスニョンくんが言葉を落とす。

「さっきのさ、朝も夜も似合うって、あれどう言う意味？」

「……そのままの意味だよ。スニョンくんは自然の美しさが似合う人だなってずっと思ってたの。」

「？よく分かんないけど、褒めてる？よな、ありがとう！」

その言葉に私がふふ、と笑みをこぼすとおい、何笑ってんだよ〜ソラちゃんが難しいこと言うからだろ〜と頬を膨らませてこっちをじっと見つめてくる。

「最初に会った時から思ってたの。スニョンくん、月みたいな金髪に花のような声、それから太陽みたいな笑顔だなぁって。」

雨の共に滑り落ちた私の言葉に、スニョンくんは綻んだ口元を手で押さえて俯く。

「……なんだそれ、すげー嬉しい。でも俺も、初めて見た時、こんなに花が似合う人いるんだって、思った。話してみると意外と気さくだし、笑顔が可愛くて、まじで驚いたの覚えてる。」

………どうやら照れて俯くのは私の番のようだ。

「わっ！ソラちゃん顔真っ赤。」

私の顔を覗き込んで、目を細めて笑う彼に、スニョンくんのせいだよ、と伝えると、「俺馬鹿だからあんまり期待させるようなこと言わないで」と諭される。

あともう一歩が進めない私は、何も返せず赤くなった頬を冷ますのにまた俯いた。