風味絶佳 (ページ35)

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鈴虫も寝静まるような夜中。不意に鳴った携帯を見ると、一度も履歴のないジフンさんとのトーク画面に、新着メッセージとの文字が。すぐに既読をつけて携帯を覗き込む。

＂会いたいから店に出てきて欲しい＂

メッセージを読んですぐ、身なりをすこし正してからお店の鍵を開ける。
家からお店へ、お店から外へ、ドアを開けると、待っていたかのように車が目の前に止まった。

急いで電気を点けると、お店に入ってきた、汗だくの彼と目が合う。
ごめん、間に合わなかった、と床を見つめるジフンさんに、何が？と聞く。
謝られるようなことはされてないし、寧ろ久々に会えて嬉しいなあ、あ、黒髪に戻ってる、なんて呆然と考える。

「……誕生日。昨日、ソラが産まれた日だっただろ。」

少しだけ日付を超えた携帯の画面を見ながら、それをどうしてジフンさんが知っているんだろう、と不思議に思う。

「確かに、昨日は産まれた日ですけど、でも、私は、」

＂ここに拾われた日が誕生日だから＂
そう言おうとした私を、ジフンさんの声が遮る。

「俺は、ソラの誕生日が祝いたかったんだ。コク・ソラ、の。俺にとって、大事な、大切な1人の人間だから。ソラに、産まれてきてくれてありがとう、って、どうしても言いたくて。」

ずっと聞ききたくて、でも、ずっと聞けなかった言葉。大好きな人から聞くそれは、なんだか、自分というすべてを肯定されたような気がして。

ジフンさんは、私の涙が落ち着くまで、ずっと手を握って、ただ、そこにいてくれた。

本当はケーキの一つでも買ってこようかと思ってたんだけどさ、と話し始めた彼。
どうやら、どうしても、と練習終わりに駆けつけてくれたらしい。

「ジフンさん、本当にありがとう、すごく、すごく嬉しいです。」