風味絶佳 (ページ12)

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「ソラちゃんはこれ？」

新作のドリンクのうち、モカホイップがトッピングされた方を指差してクォンくんが言う。

「どっちも美味しそうだから悩んでるんだけど……どうして？」

「あ、いや、前借りたコンパスにコーヒー缶のシール貼ってたから。好きなのかなーって！」

「うん、好き。」

何気なく答えた私を、クォンくんがどんな顔で見ていたのかは、まだ、知らない。

ジヨンとウォヌくんの昔話や、クォンくんの部活での話をたくさん聞いているうちに外が暗くなって、店内が閑散としてくる。

「そろそろ帰るか〜。」

「そうだね、楽しかった。ありがとう！」

「ソラは徒歩通だからここでバイバイだよね。スニョン、チャリなんだから送ってってあげて。」

夜、ってほどでもないし大丈夫だよ、と丁重にお断りする私を横目に、言われなくてもそのつもり！とクォンくんが笑う。

駅へ向かう2人に手を振って、自転車を押しながらゆっくりと進むクォンくんの横を歩く。

「ソラちゃんちってこっから何分くらい？」

「10分くらいかな。ごめんね、わざわざ」

「お、意外と近いんだな！謝らなくていいよ、俺今すげー楽しいし。」

＂楽しい＂その言葉の真意はわからないが、社交辞令を言っているようにも見えないから、ありがとう、とだけ呟く。

「てか、なんで俺のこと苗字で呼んでんの？その、できればスニョン、が、いいんだけど、いや、その、ほら！ウォヌはウォヌくんじゃん！」

「ウォヌくんには、ウォヌでいいよって言われたから……。それに、」

＂名前で呼んでしまったら、きっともっと好きが加速してしまうから＂

歯切れ悪く口を紡ぐ私に、それに？とクォンくんが追い打ちをかける。

「ううん、なんでもない。じゃあ私もスニョンくん、って呼ぶね。」

「、おう！」

スニョンくんと話をしながらあるく道は、いつもよりずっと早く終わってしまうみたいだ。家の前でここだから、ありがとうと伝える。

「なんか、あっという間だな。……また一緒に帰ろう、じゃあな、ソラ！」

不意打ちで呼び捨てされた自分の名前に反応する。眩しそうに手を振るスニョンくんにうん、と頷き家に入る。
私、今、表情は大丈夫だろうか？胸の中がスニョンくんで溢れて、口からこぼれてしまいそうだ。今日は大事に、ぎゅっと、ぎゅっとして眠りにつこう。