猟犬の妹は命を救う仕事をしている。 弐 【文スト】

65 （大宰の15歳時のエピソードを含みます） ページ26

李「僕はね、本当は『李 瑛藍』じゃないの」

太「、、、え？」

瑛藍は、自ら名乗った名前を急に否定した。

太宰は、瑛藍をじいっと見つめる。

瑛藍の真意を探る為、ただの一言も聞き逃してはならない。

李「僕はねぇ、ただの『稲荷姫』であって、それ以上でも以下でもないの」

僕が言ってる意味、分かる？

学校の先生が生徒を諭すみたいに、優しく問い掛ける瑛藍。

この意味深な言い回しからして、『李 瑛藍』が偽名であるという線は捨てて良いだろう。

もっとずっと深い意味があるはずだ。

思考を休めるな。

もっと早く、もっと的確に、頭を回し続けろ。

太宰はふと視線を上げ、虚空を見つめる。

太「、、、ああ、そうか」

何かに気付いた。

否、真相に気付いてしまった。

太「瑛藍、いや、『稲荷姫』。
君は、本当は人じゃあない。
そうだね？」

瑛藍は黙って聞いている。

その沈黙こそが肯定の証だ。

太「君も、1個の『器』なんだね」

瑛藍はまた少し笑った。

ほっとしたような、嬉しそうな、今度はちゃんと人間らしい笑顔だ。

だが彼女は『人間』ではない。

李「そうだよ。
僕はね、異能力『洛陽』を制御する為だけの入れ物なんだ」

相変わらず言葉が足りないが、今の太宰にはこれで十分だ。

太宰のマフィア時代の相棒、中原中也。

彼は『荒覇吐』という異能殺戮兵器を仕舞う為に作られた『器』だった。

その前例を知っている太宰だからこそ導き出すことが出来たのだ。

太宰は、追加でいくつか質問する。

太「その『洛陽』って異能は、誰かが人工的に作ったの？」

李「ううん、そうなんだけどそうじゃない」

太「そのつもりはなかったのに、異能本体が暴走したのか」

李「うん、そういうこと。
作者の想いが大き過ぎたんだ。
『稲荷姫』ってね、本当は絵のことだから」

太宰はようやく完璧に理解した。

この16歳の可愛らしい少女、瑛藍は、異能力『洛陽』を留める為の容器。

『洛陽』とは、誰かが描いた絵画の題名。

おそらくは、中国の都市『洛陽』に、半人半虎ならぬ半人半狐の少女がいるという絵なのだろう。

だからその絵は『稲荷姫』と呼ばれる様になる。

だが、『洛陽』に作者がかける想いがあまりに大きく、『洛陽』は自意識を持つようになる。

ただの絵画だったものに、自我が芽生えたのだ。

それを異能者でない一般人の作者は、手元に置けなくなった。

だから中国人の少女の身体に仕舞い込んだ。

おそらく裏社会の人間にでも依頼したのだろう。

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