４０＜やっぱりお前は青が似合うよ＞ ページ41
〜とある家の長男が語る〜
9月10日-17:02-
「それが…？」
「はい、例の髪飾りです。」
Aがいつも付けている髪飾りだ。
「母さんは、有名なアクセサリー芸術家だった。でも母さんは、どんなにお金を積まれても、この人に渡すべきだ、という人にしか作品を譲らなかった。だから、その価値は元々の価値と相まって、非常に高かったんです。一般に公開されてるものは、然るべき場所にあります。だからでしょうね、強盗も。」
声が震えている。
「母さんの御両親は、母さんが芸術方面に行くことを反対していたらしく、母さんが高校生のときに絶縁したそうですが、警察の頼みで、保護者にはなってくれました。でも、東京…赤塚で一人暮らしするのはやめませんでした。…母さんの世界を否定した人たちの世話には、なりたくなかったから。」
Aの目は遠くを見ている。
「大きな池の公園で、私はその人と出会いました。その時私は、公園をふらふらと歩いていました。
また、独りだ。そう思ったら、もうどうにでもなれと思って、池に。」
二人用ベンチ。Aは隣にいる筈なのに、酷く遠い。
「目が覚めたら、泥だらけの青が映っていて、それから、大丈夫か、カラ松girl？お前も兄に驚かされて落ちたのか、なんて言って。
＿それがカラ松さんです。その手には、月の髪飾りを手にしていて。
流されていたんだ、青い髪飾り、よく似合う、俺の色だ、って…。
その日、私の世界に、青が焼き付いた。
ありがとうって、それだけ言いたかっただけだったんです、ずっと。
言えたら、この中心に、青いパーツを入れようって。
でも、ずっと独りで、やり方も何も解んなくて、でも少しでも青に近付きたくて、追いかけて行く内に、また昔のように空回りして…気づいたら、戻れなくて、こんな。」
Aは立ち上がり、夕焼けの向こうへと消えて行く。
「もう、会いません、貴方にも、カラ松さんにも。」
Aは此方を振り向かない。
「さようなら。」
今度こそ、こいつは本当に俺の手の届かない方へと行ってしまう。
「なあ。」
「はい。」
でも、俺はもう、その手を掴むだなんて、そんな軽挙妄動なことは出来なかった。
「…やっぱりお前は青が似合うよ。」
そう言うと、Aは、はっとしたような表情で此方を見て、それからはらりと涙を流すと、穏やかな声で、俺に言った。
「ありがとう。」
酷く悔しかった。
夕焼けに、俺の『色』に溶け込んで行くA。
その赤色が、Aには酷く似合っていなくて。
それが本当に、本当に、酷く悔しかった。
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錠前(プロフ) - ライムさん» ライムさん、コメントありがとうございます！楽しんでいただけたようで何よりです。これからも頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2019年6月30日 12時) (
レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
ライム(プロフ) - 作品、めっちゃ素晴らしいかったです！！！これからも応援しています！ (2019年6月17日 6時) (レス) id: 928e00f70d (このIDを非表示/違反報告)
錠前(プロフ) - killlifeさん» killlifeさん、コメントありがとうございます！甘いだけじゃない恋、ある種の苦味のある甘酸っぱさ、そういうモノがこの作品のテーマのひとつだったので、伝わったようでとても嬉しいです。これからも頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2019年5月30日 19時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
killlife - とても良い作品でした。甘酸っぱくて何だか学生時代の頃を思い出しました。コメント頂けると嬉しいです。 (2019年5月27日 0時) (レス) id: a010fddd46 (このIDを非表示/違反報告)
錠前(プロフ) - はむめろんさん» はむめろんさん、コメントありがとうございます！心が動かされた、というお言葉、本当に嬉しいです。この作品を通して、貴方に『何か』が伝わったなら、それだけで私は満足です。新作も頑張っていきますので、何卒、よろしくお願いします。 (2018年8月18日 10時) (レス) id: 09029ad6bb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：錠前 | 作成日時：2016年10月22日 16時
